7月8日、Netflixで映画『呪詛』の配信が開始した途端、日本はおろか世界各国で話題騒然。台湾ホラー映画史において、『返校 言葉が消えた日』(19年)に続き、歴代第2位、台湾映画全体でも現時点で歴代23位という興行成績を収めた。

Netflix映画『呪詛』独占配信中

「台湾ではホラー映画を観に映画館に足を運ぶのは20〜35歳くらいの人々と、ほぼ限定されており、興行収入にも限度がある。それ以上の年齢層や親子を呼び込むことは難しいのだが、『呪詛』に関しては興行がうまくいった」と台湾のシネコン「in89豪華影城」の李秀玫副社長は語っている。SNSを始めとしたメディア戦略が上手くいったのはもちろんなのだが、「台湾映画史上最恐ホラー」と謳われたことには理由がある。

 かつて台湾・高雄市鼓山区で、神明憑依(しんめいひょうい)を自称し始めた一家6人が自傷、殴り合いなどを行った末、長女が死亡するという事件が発生した。憑依状態は20日間にも渡って続いたという。

ADVERTISEMENT

事件が起きた台湾・高雄市 ©iStock.com

 実際に起きたこの不可解な事件をベースにし、『呪詛』の物語は作られた。大ヒットの要因は、台湾の人々の共通認識としてあった恐怖と興味が掻き立てられた結果ではなかろうか。

 そこで、実際の事件の概要を紹介したいと思う。

 吳一家は2005年2月末の「その日」が訪れるまでは、いわゆる普通の家族であった。56歳の夫妻はペンキ職工として生計を立てており、20代の子供が4人いた。29歳の長女は台北で飲食業、次女は看護師、長男は印刷業に従事し、そして末の三女は大学生であった。家の中に神像を祀(まつ)って拝む、信心深い家族だった。

 ある日、夫妻が廟(びょう)で参拝をしていると、見知らぬ道士から「家の中に不浄なものがある」と告げられた。夫妻は急いで道士を家に呼び、お祓いをしてもらうことにした。すると、「祀っている哪吒三太子(なたさんたいし)像の位置を移動しなさい」と提言され、言われるがままにした。そうすれば吳家は末永く平安な暮らしを送ることができる、と信じたのだ。

台湾の寺廟(龍山寺)©iStock.com

 だが、運気が好転しないどころか、吳家に降って湧いたような災いが生じ始めた。家族全員に神憑(かみがか)りのような現象が起きたのである。

 まず帰宅した三女が「哪吒三太子が神憑った」と突然言い出した。「台北に住んでいる長女の命に危険が迫っている。早く高雄に帰郷させないと、子どもに先立たれることになってしまう」と、“三太子からのお告げ”を口にし始めたのである。