古い戸建の家に居住していた吳家だが、問題が起きた6人の他、階下には年老いた両親と実弟夫婦、子供1人が同居していた。6人が住む階からは、叫び声や何かがぶつかり合うような音がし続けていた。この様子に怯えた階下の親族はしばらくの間、宿泊施設への避難を余儀なくされた。
4月9日、ベッドの上で口から泡を吹いている長女を家族が発見。手足は冷たくなり、息をしていない状態に陥っていたため、看護師である次女が数回、心肺蘇生を試みた。だが、5分後には誰も気にかけなくなり、その場を離れていった。
「死んだのは長女ではなく、取り憑いた邪霊である」「身体から霊魂が抜けてしまったのは一時的なものだ」という、家族なりの解釈が生じたため、長女をすぐに病院へ連れて行かなかったのである。
4月11日、母親は長女から抜けた亡魂と対話をしたと主張している。「自分は既にこの世を去っている」と、長女の亡魂は語ったという。
反応が無い状態が続く長女のことを心配し始めた父親は、ここでようやく近所の人に助けを求めた。異変から2日が経過し、近隣住民からの連絡によって病院へ救急搬送されたのである。だが、この時、長女はすでに死亡していた。
長女の身体には多数の青あざがあり、あまりに不自然だったため、病院側は警察に捜査を依頼。この通報により、奇怪な事件が発覚したのである。
家族5人は再び何かに取り憑かれてしまうのではないか、と怯えながら身を隠し、警察から事情説明(聴取)をされるまで、「長女は死んでいない」と言い張っていた。
だが、こうなってはもう後戻りができない。すると、「長女は邪霊に取り憑かれて死んでしまったのだ」と、家族は口を揃えて言い、近隣住民を恐怖に陥れた。
ちなみに司法解剖の結果、多数のあざは致命的なものではなく、多臓器不全が死因という見解が示された。何日も食事をしなかったのが原因である。
警察は家族5人を呼び出し、捜査を開始。外見は普通の人々と変わらないのだが、服を捲りあげると、背中には焚いた線香を押し付けられてできた、くっきりとしたドット柄のような火傷痕があった。他の家族の身体にも多数の青あざがあり、母親はそれが両頬にまで至っていた。
尋問を行うと、常人の理解の範疇(はんちゅう)を超えた不可思議な発言に満ち溢れていた。霊媒の過程についてや「霊と話した」などと臆することなく語っていたが、警察の調べに対しては「過去に霊媒をしたことはない」とも答えたという。
さらに現場検証を行なうと、あちこちが奇怪な状態と化していた。たとえば玄関には紅い線香が吊るされ、家のあらゆる窓には符咒が貼られていた。窓の外には干された数々の黒い服がはためいていた。そして、祭壇の脇の壁は20日間、燃やし続けた線香によって黒く燻された状態になっていた。