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 母親はその夜、すぐさま長女を高雄に連れ帰った。だが、帰宅した長女は眠ると性的暴行を受ける夢を見るようになり、恐怖により昼間にしか眠れなくなってしまった。

 ちなみに哪吒三太子は少年の姿をし、蓮華の化身とも言われている神様である。電動立ち乗り二輪車を操るかのごとく、風火二輪で自在に空を駆け巡る。

 ゲームや『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』(19年・中国)を始めとした中華圏の様々な作品に登場。近年でも『ナタ〜魔童降臨〜』(19年・中国)や『ナタ転生』(21年・中国)など、主役となるアニメがいくつも制作されている。

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映画『羅小黒戦記ぼくが選ぶ未来』のキャラクター、ナタ

 台湾では廟のお祭りに電子音楽とともに軽快に踊る「電音三太子」がよく登場し、賑わいに華を添えている。このように民衆に人気の神様のひとりなのだ。

 3月初旬のある日、長女のもとに謎の電話が掛かってきた。その後から、長女に憑依のような現象が起こり始める。「観世音菩薩こそが人々のために災害をなくすのだ」と長女は叫びだした。そして、素手で自身を殴打するという自傷行為も始まり、制御不能となってしまった。

 異常事態に切羽詰まった家族は、長女を落ち着かせるため、台湾・新竹県にある五指山(ごしざん)へ瞑想修行に連れて行く。だが、帰宅しても長女の症状は改善されなかった。

台湾の家にある祭壇のイメージ ©iStock.com

 吳家にある祭壇でもお祓いをしたが、事態はさらに悪化した。父は「人間の善悪を審査する民間信仰最高位の神・玉皇大帝(ぎょくこうたいてい)」、母は「すべての女仙を支配する最上位の女神・西王母(せいおうぼ)」、子ども達は「玉皇大帝と西王母の七人の娘・七仙女(しちせんじょ)」、「臨済宗の高僧・済公(さいこう)」……などと、各々が様々な自称をし始めたのである。

 その後、父親は法師に風水を見てもらい、符咒(ふじゅ・道教のお札)をいくつか書いてもらった。符水(符咒を浸したり、燃やした符咒を入れた水)を作って飲むように指示もされた。飲むと病気を治す効果などがあると言われるものだが、符水を飲んだ吳家は、異常行動がどんどん増していった。

 一家6人は憑依のような状態になっている間、絶えず自傷をするだけでは収まらず、各々が神主牌(戒名や法名を記したもの、位牌)を握りしめ、杖や棍棒で互いを殴っていた。火の点いた線香を自分以外の家族に押し付けて燃やそうとしたり、熱湯を浴びせて火傷を負わせたりもした。このような方法を用いて“邪気祓い”を行っていたのである。

 また、浄化作用があるという鹽米(えんべい・粗塩と白米を混ぜたもの)を撒き散らした。

 この状況は約20日間ほど続き、一家6人はその間、飲まず食わずだったが、空腹を感じなかったという。魔除けになると言っては尿を塗りたくった上、飲尿もし、挙句の果てには大便を食べていたのである。