文春オンライン

未解決事件を追う

2022/08/16

genre : ニュース, 社会

「中国人なのだから自殺するはずがない」と高を括っていたのでは

 だが、外国人犯罪捜査に携わってきた刑事たちを驚かせたのは、捜査の未熟さや任意同行にかかる不十分さだけではなかった。「それまで中国の犯罪者や容疑者が自殺するなど、聞いたことがなかったからだ」と、元刑事・A氏はいう。事件当時、取材した外国人犯罪捜査担当の刑事や元刑事の誰もが、口を揃えて「聞いたことがない」と言っていた。

 元警察幹部・B氏は思わず、捜査本部にいる元の部下に「同じ中国人といっても、中国本土の中国人と台湾人ではまるで違う。彼らが同じ文化だとは考えないほうがいい」と電話したと明かしてくれた。

 元部下はその電話に、「そうだったんですか。中国人と台湾人はそんなに違ったのですか」と答えた。沈んだような彼の声を聞き、B氏は「おそらく捜査本部には、容疑者といっても中国人なのだから自殺するはずがないと高を括っていたところがあったのではないか」と思ったという。

台湾における日本人的な文化的思想

「それまでの中国出身の犯罪者の多くは、逮捕され、証拠を突き付けられてもなお、自分は悪くない、相手が悪いんだと言い逃れし、なんとか生き残ろうとする者が多かった。そのため捜査員たちの中に、中国人犯罪者に対するステレオタイプが出来上がっていた可能性がある」

 その違いの理由を元警察幹部・B氏は「台湾人の中には“恥の文化”がまだ残っているからだ」と説明した。恥の文化とは、ルース・ベネディクトの『菊と刀』の中で使われた用語であり、日本文化を他律的な「恥の文化」と捉えている。そして日本人は、社会や集団という外面的な世間体によって他律的に善悪を判断するとされている。

 台湾における日本人的な文化的思想は、日本が台湾を統治していた時代に入っていったものらしい。

「台湾人の年配者には日本語教育を受け、日本の文化に触れて育った世代があり、彼らは日本でいう『恥の文化』を持っている。その子供たちは親の躾や教育により、知らず知らずのうちに恥の文化を身につけるようになる」

 元警察幹部・B氏の言う恥の文化とは、身内や自分の属する集団に恥をかかせない、かかせたくないという意識や行動だけでなく、日本人の潔さや自分でやったことの始末は自分でするという意識を指していた。