1ページ目から読む
2/4ページ目

容疑者を車から降ろそうと、捜査員が目を離した一瞬の隙に…

 これだけ凄惨な事件を起こした張容疑者だが、捕まったのは名古屋、アイドルグループSKE48の劇場近くだった。事件後、同居していた友人に「大阪に行く」と言い残して行方不明になっていたが、彼は大阪ではなく名古屋にいた。その目的は、ファンだったというSKE48がその日に行うコンサートのライブ映像を設置会場で見るためだったという。

 この時、公演の主催者側がチケットの応募者の中に指名手配された張の名前を見つけ、警察に通報。抽選は外れていたが、ライブ映像が見られる会場に現れる可能性があると見込んだ捜査本部は捜査員を派遣して、現場で張り込んでいたのだ。殺人を犯した人間が逃走するでも国に逃げ帰るでもなく、アイドルグループの公演を見に行くという心理に世間は騒然となった。

 だが、彼は呆気なく自殺してしまう。捜査員が張容疑者を見つけて「張さんか」と尋ねると、彼は「はい」と返事し、任意同行に素直に応じたという。捜査員が身体捜検であるボディチェックと所持品検査を行い、彼を捜査車両に乗せた。同乗した捜査員は4人、そのうち2人は容疑者を両側から挟むような形で後部座席に座っていたという。ところが、取調べを行うために向かった愛知県警中署に到着して、車から降ろそうと捜査員が目を離した一瞬の隙に、容疑者は果物ナイフを腹部あたりから取り出し自分の首を刺したのだ。

ADVERTISEMENT

※写真はイメージです ©iStock.com

内部通達で指摘した問題点は3つ

 容疑者を自殺させたという失態は、メディアで大きく取り上げられ、ボディチェックの在り方や任意同行の仕方が疑問視された。当時の捜査関係者によると、「アイドル公演に来るという見込みで、数多くの人の中から被疑者を発見したのは見事だった。だがその後、慌ててしまったのか、焦ってしまったのか、身体捜検が不十分なまま捜査車両に乗せた。そして、目を離した隙に後部座席で、持っていた刃物で自ら頸部を切って自殺されてしまった。ただこの時の捜査本部は、捜査慣れしたベテラン揃いというより、本部風を吹かせて恰好だけ一丁前のような印象の捜査員が多かった気がする」という。

 捜査員たちが、本当に任意同行に慣れていなかったのかどうかはわからないが、当時の警視庁組織犯罪対策総務課の住友一仁課長が、1月10日に出した内部通達で指摘した問題点は3つあった。任意同行を求める際の指揮、役割分担が不十分、所持品検査が不徹底、任意同行中の行動監視が不十分というものであり、おそらく不慣れだっただろうと思わせるものだった。