家族には容疑者が自殺するという予感があったのかもしれない
「これは、自分たちが見てきた中国出身の犯罪者には見られない傾向だった。容疑者の両親は、おそらく日本の影響が残る家族や社会の中で育ったのではないだろうか。そのため恥の文化を持ち、子供にもそのような躾をした。だから張容疑者も自分がやったことは自分で決着をつけるという意識を持ち、警察につかまって自殺という方法をとったのではないか」(元警察幹部・B氏)
張容疑者が指名手配された直後に、ネットで報じられた「聯合報(ユナイテッド・デイリー・ニュース)」の記事によると、台湾に住む彼の家族は、「父親はニュースを知って号泣。家族全員が泣き苦しみ、希望を捨てた。『日本の警察は慎重なので犯人と断定しなければ、絶対に手配しなかっただろう。息子が生きているうちには会えないかもしれない』と、絶望的な心境を明かしていた」とあった。家族には、容疑者が自殺するという予感があったのかもしれない。
「申し訳ないことをした」事件への関与をほのめかしていた
前述した元刑事・A氏も「自分がやったことは認めず、自分がやったとは受け入れたくなかったため、名古屋に公演を見に行けたのではないか。だが自分が犯人であってもしらを切り、とぼけたり、言い逃れをするという側面がある反面、もし捕まったら自分の始末は自分でするという意識があったため、ナイフを所持していたのだろう」と話す。
「同じ中国人でも漢民族と朝鮮族では民族的な違いがある。中国本土にいる中国人と、台湾人、香港人、各国に散らばる華僑では文化的背景も生活環境も異なる。それらの違いを理解しておかないと、そこからくる犯罪の特性、容疑者の心理や行動の違いを捜査に生かすことができなくなる」(元刑事・A氏)
任意同行中の車内で捜査員に対し、被害者2人の名前をあげ「申し訳ないことをした」などと話し、事件への関与をほのめかしていたという張容疑者。なぜ2人の人間を惨殺してしまったのか、その動機や真相が解明されることはもうない。