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正しかったかはわからない

 國保は副部長となった2021年夏から2022年の3月までは指導から離れていたという。新年度を迎えるにあたって、転勤がなかったことから、改めて部長職に就き、4月から再び指導の現場に戻っていた。

「一度、指導を離れたからこそわかる選手の成長もある。それを学びましたね」

 佐々木の完全試合のニュースは、練習試合後に携帯電話で確認した。その感想はと問うと――拍子抜けするぐらいに淡々と言葉にした。

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「ふーんという感じ。ああいう大きいことをやるとも、やらないとも思っていなかったから意外とそんな感想ですよ。もちろん、活躍は嬉しいですよ。それはもう。NPB(日本プロ野球機構)の世界に慣れて、落ち着いて自分のボールを放れている。160キロを投げられたとしても、それを打ち返すのがプロの世界。スピードガンの表示以上に大事な要素が投球にはある。他の投手が投げないようなボールを投げられれば必ず打ち取れる。そうしたボールをこれからも追求してほしいです」

 高校時代からの成長についても言及した。

「高校に入学した頃は、投げ方にしても走り方にしても、動きがカクカクしていて、ぜんぜん滑らかじゃなかったんです。2年生、3年生になるにつれ、少しずつ滑らかになっていきました。プロに入ってからの投球フォームも、だんだんとロスなく力がボールに伝わるような感じに良くなってきている。アップデート、レベルアップを繰り返している印象を受けます」

大船渡時代の佐々木朗希 ©文藝春秋

 朗希を投げさせなかったことが本当に正しかったのか――そう自問自答する日々は3年の時を経ても変わらない。完全試合が達成されたことで、國保の決断は英断だったと考えるのは短絡的だろうか。國保は言う。

「完全試合をプロで達成したからといって、あの決断が正しかったのかどうかはわかりません。(花巻東との)試合に負けたということは、正解の戦い方ではなかった。結局、朗希が登板しなくても、勝てるようなチーム作りを僕ができなかった。他に打つ手はなかったのか。それをずっと考えてきました。ひとつだけ言えることは、たとえあの日に時間が戻ったとしても、同じシチュエーションなら僕が朗希を花巻東との決勝に起用することはないということです。

 当時、私が一番恐れたのはヒジの故障です。ピッチング時、右腕は廻旋運動をして、遠心力が生まれる。登板が重なり、かなりの球数を放ってきた疲れた状態の朗希のヒジのじん帯や上腕二頭筋などの筋肉が、160キロ超のボールに耐えられるのか。そこを懸念しました。決勝で投げたとしても、故障はしなかったかもしれない。だけど、故障リスクが最も高い日だったことは間違いありません。だから登板させなかったことは後悔していません」