一方で、2019年の岩手大会の戦い方において悔いているのは、194球を投げた4回戦の盛岡四戦で降板させなかったことだという。
「9回に追いつかれて延長に入り、球数がどんどんと増えていった。降板させるべき球数の目安というのは、投手それぞれ、異なると思うんです。人によって70球かもしれないし、120球かもしれない。同じ一球でも直球とカーブとでは肩肘への負担は異なります。選手の疲労度、ケガのリスクというのは、球数だけで単純に推し量れるわけではなく、結局は、選手の状態を見て判断するしかない。あの試合はやはり、途中で降ろすべきだったんでしょうね……」
「お答えできないチームの事情があった」
また、決勝の前日となる準決勝の一関工戦を129球で完投させたことについても話が及んだ。
「ベンチにはベンチの考えがあり、お答えできないチームの事情があった。盛岡四戦は降ろすべきだったと思うけれども、この試合はそうは思っていません。まず勝たないことには次に進めない。矛盾するお答えになるかもしれませんが、トーナメントである以上、ひとりの投手で勝ち上がることはできない。『1』を背負った投手しか投げさせないとなると他の投手のモチベーションも上がりません。そういったことも含めて、決勝では朗希を登板させなかった。真夏のトーナメントを勝ち上がるということは本当に難しいです」
もしかしたら2番手以下の投手に、肩やヒジの故障があった選手がいたのかもしれない。そういう裏事情を一切明らかにせず、言い訳をしないところが國保らしい。
監督を退任して肩の荷が下りたということもあったのか、2020年夏に話を聞いた時よりもさらに丁寧に、時間をかけて國保は言葉をつないでいった。
話の途中で、入学したばかりの1年生たちが國保の指示を仰ごうと勢揃いする場面があった。中座した國保は、冗談を言いながら試合までの時間に昼食を摂るように指示していた。球児たちの表情はなんとも柔和だ。球児から慕われているのが伝わってきた。2年前の國保とこの日の國保のどちらが体育教師・國保の素顔なのか、考えるまでもなかった。
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