党内政治のためにはやったほうが絶対に得
――とは言え、この世論の中で国葬を強行すれば、岸田政権にとって大きな打撃になりそうな気がします。
御厨 いえ、岸田さんとしては国葬が“損”になるとは思っていないはずです。当日は世界各国の首脳が来日して外交について話し合う弔問外交の場になるわけです。それが実現すれば外交としては大成功ですし、国内でも国葬をやって良かったという論調になると踏んでいると思います。だからこそ今は反対論が多くても押し通そうとしているわけです。それに、党内政治のためにはやったほうが絶対に得ですからね。
――国葬がどうして党内政治に効くんですか?
御厨 理由は単純で、安倍派が喜ぶからです。安倍派は安倍さんというトップを失いましたが、依然として自民党内で最大の派閥であることに変わりありません。国民からの反対に負けずに国葬をやりきれば、戦後復興を導いた吉田茂さんと“同格”扱いしたことになり、安倍派は岸田さんに「よくやっていただきました」と頭を下げざるをえない。最大派閥を抑えれば、党内運営は明らかにやりやすくなります。
国民の支持より「国葬」の方が大事
――安倍派は国葬を強く望んでいるわけですね。ただ首相在任中の疑惑があらためて注目されるなど、国葬の実施でもっとも“損”しているのは安倍氏自身という見方もありそうですが……。
御厨 たしかに、国民から見た安倍さんの評価は下がっているかもしれませんね。ただ安倍さん周辺の人々は、世の中の評価をほとんど気にしていないでしょう。そもそも安倍さん自身が「政治は分断されても良い」という考えでやってきた方です。意見が違う人との話し合いや交渉はあまりせず、自分の考える保守的な政治を貫いてきた。反対が多いから妥協しようとか話し合おうとか、そういう思想は安倍さんの中には一切ありませんでした。
ですから安倍さんの周りの人たちも、「国葬」という名誉な形で送り出されることの方が、国民からの広い支持を得るより大切だと考えていると思います。岸田さんもそれがわかっているから、安倍派を懐柔するために世の中の逆風に耐えているわけです。