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 9月末であれば、内閣改造も終わって一息つくタイミングです。そういった政治スケジュールだけを考えていて、国内の反発がここまで大きくなることは予想外だったのではないでしょうか。

岸田首相は安倍政権下で4年半にわたって外務大臣を務めた ©Getty Images

国葬中止という選択肢は「まずない」

――興味深いのは、これだけ多くの人が反対しているのに自民党内から国葬に反対する声がまったく聞こえてこないことです。発案した岸田首相はともかく、石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相らがガス抜きも含めて逆のスタンスを表明してもおかしくないと思うのですが……。

御厨 経済政策や安全保障などの政治的な争点であれば「国民の反対感情を考慮しては……」と言う人は出てきますよね。でもこれは人の生き死にの話で、しかも亡くなったのは自分たちが所属する政党を長年率いてきた功労者です。すでに閣議決定された段階になって国葬はダメだと言おうものなら、実施を決めた岸田派や安倍派はもちろん怒りますし、党内からも支持が集まらないでしょう。

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 それに、自民党議員が反対意見を表明することで反対派に“お墨付き”を与えることも恐れているはずです。というのも、自民党がいま心配しているのは国葬の安全性の問題で、銃撃されて亡くなった安倍さんの国葬の場でまた何か事件が起きたら取り返しがつかない。それを煽る可能性がある反対意見は、いくら安倍さんに対抗してきた石破さんでも言えないと思います。

安倍政権を批判する姿勢が“自民党内野党”とも称された石破元幹事長 ©Getty Images

――自民党内の空気感を考えると、批判できるような空気ではないと。

御厨 国葬が「一度きり」のことで今後には影響しないと思っている議員も多いんでしょう。これから先の政治でも争点になるとか自分の損得に関わるなら反対する人も出てくるかもしれませんが、そもそも国葬は戦後2例目で、今後もよっぽどの条件が揃わない限りは行われない。あと2カ月で過ぎ去る出来事のために、わざわざ党内で反感を買おうとする人はいないでしょう。

――岸田首相には国葬中止という選択肢はあるのでしょうか。

御厨 海外にも通告してしまった以上、まずないと思います。それに国民の反対を理由に中止にしてしまえば、これからは世論調査で反対されたら止めなくてはいけないという先例を作ってしまう。いまさら間違っていましたとは言えませんよ。