なぜ、安倍晋三元首相を護(まも)っていた警察の「警護員(けいごいん)」は、背後がガラ空きであることに気づかなかったのか?

 どうして、犯人を射撃しなかったのか?

  多くの専門家の方々がメディアでそうした疑念を口にしている。

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 しかし、そこには「警護」という世界の専門家の姿がほとんどない。

山上徹也容疑者 ©共同通信社

「警護」専門家たちの“秘められた声”に迫る

「警護」は、大きな枠組みで言えば警備警察のひとつの部門である。警備警察には機動隊を運用する「警備実施(けいびじっし)」、皇室関係者を護衛する「警衛(けいえい)」などがあり、それぞれで極めて独自性の強い技能と経験値が要求される。

「警護」もまさしくその一つで、その世界にいる者や経験者しか理解できない部分が多い。

 今回、麻生幾氏は安倍元首相の警護の背景事情に迫ったレポートを「文藝春秋」に寄稿。

「現役の警護員」たちの“秘められた声”を伝えることで、語られていない事件の真相を浮き彫りにしている。

守られなかった「3つのマニュアル」

 多くの「ベテラン警護員」が真っ先に口にしたのは次の言葉だった。

「日本警察の『警護』には3つの『マニュアル』がある。『警護要則』、『警護細則』、そして『警護措置マニュアル』(以下、総合して「マニュアル」と略)がそれらだ。

 しかし、今回の奈良県警の警護員たちはこれら『マニュアル』の重要部分をいずれも守っていなかった」

「現役の警護員」たちが指摘したのは、「基本体形」という配置であり、「警護対象者」(安倍元首相)との「距離」である。

安倍首相を取り巻く警護員たち(2019年) ©共同通信社

 それらが「マニュアル」から逸脱していたと言及した。

警視庁での研修を受けていなかった

 では、奈良県警の警護レベルにはどんな問題があったのか?