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芋づる式に大手証券会社と大手都市銀行に捜査のメス

 こうしたなか、総会屋の時代の終焉が決定的となる大規模な事件が摘発された。1997年5月、東京地検特捜部は商法違反容疑で野村証券元常務らと総会屋の小池隆一を逮捕。翌月には第一勧業銀行(現・みずほ銀行)幹部4人、同年9月には山一証券元社長も逮捕した。10月には日興証券元副社長、11月には大和証券元副社長を逮捕するなど、芋づる式に当時「四大証券」と呼ばれた大手証券会社と大手都市銀行に捜査のメスが入ったのだ。

総会屋への利益供与で特捜部の家宅捜索を受けた野村証券本社(1997年) ©共同通信社

 同時期の1997年10月には、警視庁が三菱自動車工業常務補佐らと総会屋を逮捕する。野村証券をはじめとした事件同様に、三菱自工に続き三菱電機、三菱地所、日立製作所、東芝などへと捜査は拡大していった。

 捜査当局によってこうした事件が摘発されることで、企業はようやく総会屋と手を切ることを決断する。逆に総会屋側からすると、資金源を断たれることとなり死活問題となったのだ。

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静かだが怒気を含んだ声で「お前の目玉をつぶしてやる」

 バブルが崩壊したうえに、総会屋の資金源が遮断されたことが鮮明になってきたころ、暴力の矛先が企業幹部に向けられるようになった。東京証券取引所に上場しているサービス業関係の企業で総会屋の窓口役を担っていた元総務部長が当時を振り返る。

「ある日、卓上電話が鳴って受話器を耳に当てると、『てめえ、殺してやる! 分かったか!』と怒鳴り声がしてプツンと通話が切れた。別の日の電話では、静かだが怒気を含んだ声で、『お前の目玉をつぶしてやる。右と左のどちらからにしてほしいのか。どちらからなのか答えろ』と冷たく言い放たれた。答えるのに困った」

 さらに、「別の日には『お前の指の爪を1枚ずつはがしてやる。いや、1本ずつ指を切り落としてやろうか』との電話もあった。この当時は、このような電話が相次ぎ震えた。ノイローゼ寸前だった」と心境を吐露した。

 ただの脅しではなく、実際に被害に遭うのではないかと恐怖感を抱かせるには十分な、「企業テロ」とも言うべき事件がこの数年前に起きている。

 1994年2月、富士写真フイルム(当時)の専務が自宅前で刺殺された。同年9月には、住友銀行(当時)名古屋支店長が自宅マンション玄関前で射殺されている。富士写真フイルム専務刺殺事件の実行犯として逮捕されたのは山口組系の暴力団組員らだった。

 前出のサービス業関係の元総務部長は、「人間はいつか死ぬことになる。これは誰もが免れないこと。ただ、射殺されたりむごたらしく刺殺されたりするのは勘弁してほしいと思っていた」と当時を振り返った。

 同時に元総務担当者らは口を揃えて、「最近のアクティビストは経営者には耳障りなことを要求してくるが、暴力を振るうことはない。ここは決定的に違う」と強調している。さらに、サービス業関係の元総務部長は、「現在では社長が暴力を振るわれることはない。だから堂々と経営に専念すればよい。それでも右往左往しているのであれば、それは資質の問題」と切り捨てた。(文中敬称略、一部の肩書は当時)