企業の株式を取得して株主の権利を行使し、企業に影響力を及ぼす「アクティビスト」と呼ばれる投資家の活動が近年、注目されている。彼らは「物言う株主」とも呼ばれる。日本では毎年6月下旬が株主総会の集中するシーズンだが、今年も多くの株主総会でアクティビストたちが要求を突き付けた。
かつて、株主総会を舞台に日本企業を揺さぶり続けてきたのは、反社会的勢力の一部であった「総会屋」と呼ばれた人物たちだった。1960年代から1990年代に活発に活動し、企業の株を取得しては株主総会に乗り込み、質問攻撃で経営陣を立ち往生させた。ただ、裏取引によって、事前通告していた質問を取り下げることもあった。しかし、アクティビストの場合はこうした取引に応ずることはなく、正攻法で要求を突きつけるため企業の防戦が続いている。(全3回の2回目/1回目、3回目を読む)
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手土産の菓子折りに現金200万円
今年の株主総会シーズンの特徴のひとつは、77社に292件の株主提案が寄せられたことだ。いずれも過去最多となった。内容としては、持ち合い株式の売却、増配の要求、株価上昇が期待できる自社株買いなどである。近年の社会情勢を踏まえESG(環境・社会・ガバナンス)関係も多く、脱炭素を促進することを求めた提案もあった。
株主提案の数字が過去最多となった点について、かつて上場企業で株主総会の運営にあたってきた元総務担当者は、「この数字はかつてならあり得ない」と受け止めた。
「以前なら、総会屋から株主提案や質問状が来たらつぶしていた。要するに総会屋に『取り下げてほしい』とお願いして、なかったことにする。カネが必要なこともあった。これは違法な資金提供で、当時の商法(現・会社法)違反の利益供与容疑に抵触することだった」
一方、多くの企業を相手に活動していた元総会屋は、「株主総会の前に、送料とコピー代は負担するから貸借対照表や事業計画などの資料を寄こせ、と請求していた。送ってもらった資料をもとに『株主総会で質問する』と伝えた。寄こさないならその理由を説明しろとねじ込んだ」と当時のやり取りを述懐する。
そのうえで、裏の取引について明かす。
「資料を請求するとだいたいは、『やめて下さい』と懇願された。企業によっては総務担当役員らが『資料をお持ちしました』と事務所にやってきて、『手土産です』と菓子折りを差し出すこともあった。時代劇のようにマンジュウが入った箱の下に小判ではないが、菓子折りに現金で200万円が添えられていた。菓子折りの箱の中ではなく風呂敷包みの中が現金という企業もあった」
このように総会屋にカネを供与することで株主総会を穏便に乗り切ってきた企業だったが、現在は“その手”が使えなくなっているという。前出の元総務担当者はこう感想を漏らす。
「かつてもそうだったが、今はさらに厳しく法令順守を求められる。違法なことは許されない。株主提案が過去最多となるのは、裏取引のようなことが出来ないからと推測する。ただ裏取引がまったくないとは言い切れないのではないか」