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法廷では「覚えていない」を連発

 のちに殺人と死体損壊の罪で起訴された耕太の公判は、裁判員制度の導入前だったが、これを見据えた非公開での公判前整理手続を経て開かれた。彼は逮捕後の取り調べでは事件について、また動機について詳細に語っていたにもかかわらず、法廷では「覚えていない」「分からない」を繰り返し、さらにAさんとの兄妹仲も「悪くはなかった」など、それまでの自身の証言を翻すような内容に終始する。最終的に公判では、耕太の“責任能力”に焦点が当たることになった。

「そうですね、家出から帰ってきてからも、仲は悪くはなかったと思います。相変わらずゲームを貸したりしていました。母、妹、僕と3人で食事したことも何度かあります。僕は悪ふざけをよくします。妹が驚くようないたずらをして、笑い合ったりもしていました。妹はオバケがすごく、怖いような感じで、僕はそれにつけこんで……そうですね、夜、柱に隠れて、手に白い絵の具なんか塗って、死角から突き出したりして、妹はえらい驚いたり……そうですね、悪い仲ではなかったです」(一審公判での耕太の証言)

現場検証の様子 ©文藝春秋

 ひとりで語りながら、自分で相槌のように「そうですね」を交えて話すのが特徴だった。綺麗にアイロンがかけられたワイシャツを着て、黒いズボンをはき、声を荒らげることもなく終始穏やかな口調で、妹について、また事件について語っていた。

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 彼の言い分を信じれば、妹であるAさんとの仲は円満で、手に絵の具を塗るような、やや大掛かりないたずらを仕掛けることもあり、それをAさんも笑って受け止めていたという関係になる。逮捕後の「3年ほど口をきいていない」といった証言とは矛盾が生じる。

 そして犯行については、ほとんどを「覚えていない」と、淡々と述べた。

弁護人「首を絞めた時、180秒数えたと取り調べでは言っていましたが、そうなの?」
耕太「数えたか……そうですね、数えるのが僕の癖ですから」
弁護人「数えたの?」
耕太「はっきりしません。当時もはっきりしない、今も……。浴槽に沈めた時、見ていた時計の数字が4時7分、8、9、10と記憶しています。ですから3分やったんじゃないかと」

弁護人「『2分くらいでAさんが舌を出した』と言っていましたか?」
耕太「そんな感じではないでしょうか」
弁護人「実際に見たの?」
耕太「覚えていません」