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「部屋からにおいがしても開けないで」妹を殺害、遺体をバラバラに…両親はなぜ“加害者である兄”をかばったのか

渋谷区短大生切断遺体事件――平成事件史

2022/08/14

genre : ニュース, 社会

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「こう君は勉強しないから成績が悪いと言っているけど、本当はわからないね。私には夢があるけど、こう君には夢がないね」

 腹を立てた耕太は、3階の自室に戻り、木刀を手にして部屋を出たのち、同じ階の洗面所で、かがんで顔を洗っていたAさんを背後から数回殴った。さらに用意していた紐のようなものでAさんの首を数分絞め、瀕死状態となったAさんを2階の浴室までひきずり、水を張った浴槽に放り込み殺害したという。確かにAさんの遺体には切り傷のほか、生前に水に沈められた形跡もみられたため、このときの耕太の証言とは矛盾しない。

 凶器のひとつである木刀からは血液反応は出なかったが、遺体を切断したと見られる風呂場にすら血液反応がみられなかったため、入念に隠蔽工作をしたことが窺われた。遺体を入れたポリ袋は、母親に発見されなければ「予備校の合宿が終わったら捨てるつもりだった」とも供述していた。

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写真はイメージです ©iStock.com

歯学部を目指して3浪していた

 耕太は当時、歯学部を目指し3浪しており、年明けからの受験を控えていた。にもかかわらず、家ではネットゲームに夢中になり、勉強時間は多くなく、成績も芳しくはなかったという。かたや長男である兄は現役で歯学部に合格していた。

 末っ子のAさんには夢があったようだ。「グラビアアイドルになりたい」と事件前年から芸能活動を開始。中川翔子を目標に、ブログを更新する日々を送っていた。「女性からも男性からも愛されるように」と自分で考案した芸名を名乗り、英検やスキューバダイビングの資格を取得するなど、Aさんなりのビジョンを持ち、精力的に活動を続けていた。いっぽう、近隣住民によれば兄妹仲は良いとみられていたが、芸能事務所には「人間不信で兄妹関係もうまくいっていない」と打ち明けていたという。

 逮捕当時、耕太もAさんについて「3年くらい家の中でもお互いを避けて、話をすることもなかった」と供述していた。不仲だったことは確かなようだ。事件の1年ほど前まで耕太の勉強を見ていた家庭教師も、耕太から「妹とは仲が悪い」「口を全くきいていない」と聞いていた。

 さらに事件直前、Aさんは周囲に「うちのなかで大きな問題が起きている」ことを打ち明けている。この時期、Aさんの家庭での態度や、言葉遣いをめぐり、両親が「なぜ親や兄たちの立場をもっと考えられないのか」とAさんを叱った。娘の芸能活動について、家族は反対してはいなかったが、Aさんは家庭で孤立していた様子がある。Aさんは一時期、家出をしていたが、耕太は取り調べで「妹が帰ってこないほうがいいと思っていた」と語っている。