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ヤクルトの危機に思う。最後に生きるのは昨年険しい山を登り切った経験だ

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/08/24
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今でも後悔が残るあのワンプレー

 思い返せば2011年――今でも苦い経験として僕の記憶に刻まれている試合があります。2位と6ゲーム差の首位で迎えた9月17日の横浜戦。前の試合まで9連勝で貯金17。チームはイケイケでした。そしてこの日の試合。ビハインドから2-2の同点に追いついて、迎えた7回裏。1死一・三塁。三塁ランナーは代走で出た僕。この年は初めて1軍に定着し帯同していて、ピンチバンターや代走として大事な役割を担わせていただいていた年なんです。

 その場面、初球にセーフティバントのサインが出たんです。要は三塁ランナーはボールが転がったらホームに突っ込む「ゴロゴー」のサイン。初球はボール。2球目、そのサインが消えたように見えました。「消えた!」と思った瞬間、打者はバント。「あっ!」と思ったときには体が金縛りにかかったように動かなくなって……結果は一塁ランナーのみを二塁に進めた「送りバント」。後続は凡退し、無得点。引き分けとなった試合後、あのプレーはなんだったのか? とマスコミやファンの間で議論を巻き起こしました。

 翌日の試合は敗戦、連勝がストップ。1勝1敗を挟み、続いて行われたナゴヤドームでの中日4連戦で3敗(1勝)。ゲーム差を2.5に縮められ、主力の離脱も影響し首位陥落、再びのナゴヤ4連戦で4連敗。中日に逆に2.5差をつけられ優勝を逃してしまいました。

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 11年が経った今でも「あの試合で勝っていれば」と思うことがあります。チームの流れを変えてしまったワンプレーだったのではないか、あのとき僕が反応良くホームに突っ込んでいれば……勝負に「たられば」は禁物ですが、若手だった僕にとって、プロ野球の怖さ、厳しさを痛感した年でした。

“昭和な男”松元ユウイチコーチの満面の笑み

 そういえば、髙津臣吾監督がコロナでチームを離れたとき印象的な出来事がありました。留守を預かったのは松元ユウイチ作戦コーチ。主力を欠くなか監督代行として指揮を執るもチームは6連敗。ブラジル出身なのに礼儀を重んじ、義理人情に厚く「日本人より日本人らしい」と言われる男に苦渋の表情が浮かんでいました。

 現役時代から仲良くさせてもらっていて、僕が広報になってから動画に出てもらおうとお願いしたときも「俺なんていいよ」と頑として首を縦に振らなかった“昭和な男”。でも、6連敗のあとついに勝利を挙げたときは、小澤怜史投手からウイニングボールを受け取って満面の笑みを浮かべた姿がTwitterにアップされました。

 僕も嬉しくなって「松元監督代行初勝利おめでとう!」と声をかけました。翌日から髙津監督が復帰したので、結果として「1勝」となってしまいましたが「松元監督」として球史に1勝を刻んだ、その歴史的現場に僕も立ち会えて光栄でしたね。

誰かが欠ければ誰かが補う、今好調な男に期待

 誰かが欠ければ誰か補う。今、主力の状態があがらないなかで、気を吐いているのが中堅の星・宮本丈です。8月12日の横浜戦ではセカンドでスタメン出場し、2安打、8月16日の阪神戦では今度はファーストで先発し2安打、2試合連続完封を食らっていた青柳投手を攻略する犠打も決め、流れを呼び込み、8月23日の広島戦はセカンドで先発、4打数3安打。つなぐ役割を担い、逆転勝ちに貢献しました。

宮本丈

 今、僕から見ても絶好調に見えますが、そんなときも彼はちょくちょく僕に連絡を寄こします。「三輪さん、やばいっす」なんて言ってくる。「最近、打ててないし……」とか言うんですが、僕ははっきりと言ってやります。「今、バントできてんでしょ? それでいいじゃん」と。

 自分が首脳陣から求められている仕事はきっちりできている、そういうふうに考えろと。「やることは変わらないんだから、そんなこと考えているヒマがあったら練習しろ!」とカツを入れています。内外野どこでも守れる選手ですから、首脳陣の期待が非常に高い選手だと僕は思っています。

険しい山を登った経験が終盤必ず生きてくる

 最初にも言いましたが、いまチームはピンチを迎えています。でも、去年、ペナントレースという険しい山を登り切ったのはどのチームですか? 頂(いただき)までの道のりを知っている人と知らない人、どちらが体力的にも精神的にも余裕があるでしょうか? “気象条件”は多少変わっているから同じ“山”ではないとはいえ、先にあげた宮本を含め、登り方は心得ているはずです。絶対大丈夫! いまこそチームを信じましょう!

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