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優勝して、みんなの笑顔が見たい

 もう一つ。彼が中継ぎ投手であることで、普段西武の試合をあまり見ない他球団の担当記者からは少し気づかれにくいのではないかと危惧している。

 打者なら打率、打点、本塁打など、先発投手なら勝ち星や防御率など、単純に成績表を眺めれば、おおよその活躍具合が分かる。担当球団以外の選手でも、だ。

 中継ぎの場合、登板数や防御率が一つの指標にはなるが、それがどんな場面での登板か、という点も重要な要素になる。「優勝争いをするチーム」で、「勝ち試合の終盤を任され続けている」ことの重みを、私はとにかく強調したいのだ。

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 さらに、もう一つ。こちらはもっと声を大にして叫びたい。

 水上は超のつくナイスガイなのである。

 好きな言葉は「他喜力」。文字の通り、周囲の人を喜ばせる力のことだ。高校時代のメンタルトレーニングで出会った言葉を、プレーの上でも信条にする。

「自分が成功するのはうれしいけど、親や地元の人たちもそう。そういう人が喜んでくれたら僕はもっとうれしい。そういう人たちのために頑張ろうと思っています。ほかの人を喜ばせたいという力は強い。野球につながってくると思います」

 その意味でも、中継ぎというポジションはぴったりなのかもしれない。

「そうですよね。抑えて勝ちにつなげれば、先発投手に喜んでもらえる。あとは、優勝して監督の満面の笑みが見たいんです。めっちゃ笑ってるところを見たい。監督はちょっとツンデレ。大好きです」

ライバルとの誓いを胸にマウンドへ

 そう言って笑わせてくれた後に、もう一つ、秘めた思いを語ってくれた。このときだけは、真剣な表情で。

 ソフトバンクの大関友久投手(24)。今季、頭角をあらわし、前半戦で6勝を挙げた左腕だ。水上にとっては新人王を争うライバルでもある。

 ともに初出場となった7月26、27日のオールスター。ソフトバンクのスタッフから「(二人とも)新人王候補だね」と話を振られて、誓い合った。

「全力で勝負。お互いに気をつかうことなく、全力でやった結果、どっちかが新人王を取れたらいいよね」と。

 このときが初対面。学年は大関が一つ上だが、二人とも育成選手からはい上がったという共通点もある。「すごい優しくて、話しやすかった」

 しかし、オールスターから1週間後の8月3日、大関が精巣がんの疑いで手術をした、という発表がソフトバンク球団からあった。水上は戸惑いを隠せなかった。

 互いにシーズンを悔いなく戦った上で争いたい、という気持ちが強かった。まずは何より大関の身を案じつつ、決意した。

「大関さんの分まで頑張って、僕が新人王を取りたい。ほかの人ではなくて」

 このインタビューの翌日の8月18日、ソフトバンク球団は、大関の精巣の腫瘍からがん細胞は見つからなかったと発表した。

 大関も自身のツイッターで「リハビリからのスタートになりますが、早くチームの力になれるよう、また以前よりも力をつけた姿を一軍で見せられるよう、焦らずに頑張っていきます。これからも応援よろしくお願いします」と前向きな発信をした。

 これを受けて水上は改めてライバルとの誓いを胸に刻んだ。「焦らずに、でも1日でも早く元気になってほしいです。僕はしっかり、残りのシーズンを頑張りたい」と。

 以上が、私が叫びたくなった理由です。シーズンは残りわずか、水上の投球を、心して見たいと思います。

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