できる限りの万全の対策をとっていた宮崎商業も…
大会が始まる直前になって新型コロナウイルスの感染対策ガイドラインを変更し、なおかつコロナの集団感染が発覚した4校の出場を最も遅い第8日に振り分けた日本高野連。1年前の夏、さらには春のセンバツの事態を憂慮した末の決断だった。
21年夏の甲子園では、初戦でこの大会で優勝した智弁和歌山と対戦が決まっていた宮崎商業、2回戦で松商学園との対戦することになっていた東北学院(宮城)が、コロナの感染者が出たことを理由に出場辞退となった。
宮崎商業は選手31人、指導者3人、トレーナー1人の合計35人が宿舎に滞在。外出から戻るたびに検温と手指消毒は欠かさず行い、朝昼夕の食事は個別に食べるようにしていた。雨天の際に使用していた室内練習場では窓を開放し、できる限りの万全の対策をとっていた。
だが、8月17日朝のPCR検査で陽性者13人、濃厚接触者8人が判明。当時の大会のガイドラインでは、「試合の2時間前まで当該選手の入れ替え可能」とされていたが、ベンチ入り18人の選手をほぼ総入れ替えして、甲子園で戦うレベルのチーム力を保つのはほぼ不可能だった。結果、宮崎商業は初戦を前に学校側から日本高野連に試合の辞退を伝えた。
2回戦に出場できるはずだった東北学院
東北学院は1回戦の愛工大名電に5対3と春夏通じて甲子園で初勝利を挙げ、2回戦に向けて準備を進めていた。試合翌日の12日のPCR検査では全員が陰性だったが、13日に選手1人が発熱してコロナの感染が判明した。ただし、濃厚接触者は4人で、大会本部は「個別感染」と判断し、2回戦に出場できる運びとなっていた。
それでも同校の阿部恒幸校長は、「感染者・濃厚接触者の特定につながる恐れがあり、生徒の将来に影響を及ぼす可能性がある」と判断。日本高野連に試合の辞退を申し入れた。
チームを率いる渡辺徹監督は、次のコメントを出した。
「感染対策は十分にやっていたつもりでしたが、結果的に選手を守れずたいへん申し訳なく思っています。最後に辞退という形で終わることになり、非常に残念ですが、選手たちが協力してくれてよいチームを作ってくれたことは、たいへん誇りに思います」
当時の日本政府は、「感染リスクを減らす最大の方法はワクチンにある」とばかりに、ワクチン接種を推奨してきたが、どんなに規則正しく生活していても、感染することはある。そのことは誰も責められない。
一方でオンライン画面で校長から結論ありきで出場の辞退を伝えられた東北学院の選手たちの心中を察すると、いたたまれなくなってしまう。濃厚接触者のうち1人は、チームと大会本部と交渉を行う朝日新聞の担当記者であったことを考えると、陽性者1人と濃厚接触者3人だっただけに、仮にメンバー変更をしても松商学園とは互角に戦うだけの力があった。愛工大名電との試合で接戦をモノにしたことで、東北学院の実力は全国に証明されていただけに、その点が非常に悔やまれた。