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「年齢を重ねてそんなに頑張れない。でも頑張らなきゃ」声優・日髙のり子60歳が気づいた“違和感”と“素の声の面白さ”

日髙のり子さんインタビュー #3

2022/08/19
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「この先の50年も声優をやれます!」という年齢ではない

――声優になっても、そう感じる場面があったということでしょうか。

日髙 「この先の50年も声優をやれます!」という年齢ではないので。もちろん真摯に作品と向き合って、自分の持てる力を100パーセント出すのは変わらないんですけれども、「頑張る」の前に演じられる喜びを感じられる心の余裕も持てる人になりたいなと思ったんです。そのことをはっきりと意識したのが、還暦の節目でした。

 好きで入った世界、好きで選んだ仕事なんだから、楽しめないのってどうなんだろうって。仕事も、プライベートも人生も、楽しまないとね。そういう日々を過ごせる生き方を探りながら、お仕事をしています。

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――2012年から『名探偵コナン』(日本テレビ、1996年~)で世良真純役を演じて同シリーズを支える一方で、新しく舞台やドラマへ出演されるなど、仕事の幅は広がり続けています。そしてまったく異なるジャンルとしては、ETC車載器の「ETCカードが挿入されました」という音声も担当されています。今後、これをやってみたい、ここを探求したいというものは。

日髙 今、自分の声のままで演じるのが面白いんです。ドラマに出させていただく機会もあって、生身の人間の役なので現在の私の姿と声で演じるのが、嬉しいし、楽しい。「少女だから高く出して」とか「少年だから低く出して」というオーダーがないのが新鮮です。

 とはいっても、現在の私の声で演技をすることを、最初は少し不自由に感じていたんです。今でも自分のナチュラルな声がどこにあるのかを探しています。そうなってくると、「私の本当の声ってどれなんだろう」と分からなくなっちゃう瞬間もあって、迷いながらやっています。

 

――“素の声”で演じることが面白くなってきたのは、いつ頃からでしょうか。

日髙 これは55歳を過ぎた頃です。私の素の声を探っているなかで、姿を出して演じるというのがとてもいい機会になりました。で、そこで自分で何となくつかんだ気がしていて。洋画の吹き替えで俳優さんの声を演じた場合も、キャラ声にしなくていい。そんな瞬間に演技をするうえでの自由さを感じて、今面白いなと思っている最中なんです。