夏の風物詩ともいえる、ジブリ映画『となりのトトロ』。昭和30年代前半の日本を舞台にしたともいわれるこの作品では、入院中の母にかわって父・タツオと妹・メイの面倒をみる草壁家の長女・サツキがあるとき途方に暮れ、涙してトトロを頼るシーンが名場面のひとつ。いつも明るく気丈なサツキを演じた声優の日髙のり子さん(60)に、意外にも“一番難しかったシーン”や、3日間にわたって行われた熱気あふれる『トトロ』のアフレコ秘話についてあらためて伺った。(全3回の2回目/#3に続く)
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『となりのトトロ』の収録は3日間
――『となりのトトロ』のアフレコが行われたスタジオは、どちらだったんでしょうか?
日髙のり子さん(以下、日髙) 浜町にある、東京テレビセンターです。
――3日間にわたって収録されたそうですが、1日のスケジュールはどういった感じだったのでしょう。
日髙 朝10時からのスタートだったように思います。終わりが何時だったのか……夜までやっていたような気がするんですけれど。その3日間が短いのか、長いのか。ちょっと私には判断がつきませんが、30分のアニメーションの声を録るのに大体3~4時間かけていたので、私のなかでは、長い時間をかけたとても丁寧なアフレコだったと記憶しています。
――脚本の流れに沿ってアフレコする“順録り”でしたか?
日髙 ほとんど順録りでした。ひとつだけ、お父さん、サツキ、メイの父子3人でお風呂に入るシーンは、最後に録り直した気がするんですよ。つまり、1本の作品を通じて、私たち親子の関係ができあがったところで「もう一度」という。そのシーンが、お風呂のシーンだったと私は記憶しているんですけれど。
――やはり、そういう考えで録り直すと出来は違いますか。
日髙 そうだと思います。やっぱり、最初のうちはお互いに探り探りの状態になって。一通りいろんなシーンを一緒に経験すると、家族ならではのテンションとそのぶつかり合いが自然に出せるんですよ。そうした相乗効果から生まれた録り直しだったんじゃないかな。
「アフレコに行くのがちょっと怖いな」
――宮崎監督はベタでアフレコにいらっしゃったとのことで、サブコントロールルームから出てきて、声優の方々に指示出しは一切されなかったわけですよね。その後、『もののけ姫』では、ブースに降りてくることもあったそうですが。
日髙 さきほどもお話ししましたけど、宮崎監督と直接話すというのはなかったと思いますね。演出の指示は、音響監督がされるんです。私たちがいるアフレコブースにいらっしゃるのは音響監督だけで。私たち自身も、誰かにそういうものだと教わったわけではないんですけど、行く先々の現場でそうだったので、そういうものなんだなって。
――スタート前は「アフレコに行くのがちょっと怖いな」と思っていたとおっしゃっていましたが、メイ役の坂本千夏さんのおかげで緊張がやわらいだそうですね。
日髙 ひと声出すまで、ほんとに怖くて仕方なかった。でも、千夏ちゃんの声が耳に入ってきたら、すっとサツキに気持ちが切り替わりましたね。私の腕をつかんで、物語の世界に連れていってくれたというか。共演者の力、誰かいる安心感ってすごいものなんですよ。