――だからこその、あの躍動感。
日髙 絵は元気いっぱいなのに、どこか声に疲れが出ていたら、見ている人たちが引いていってしまう。私も、子供の頃は元気が良すぎるあまり、自分の限界を知らずにはしゃいでしまって、限界値を突破した途端に部屋の隅にうずくまって熱を出している……みたいな子供でした。
――話し方だけではなく、ご自身が投影されていると。
日髙 そういう面はすごくあると思います。私が声優になってからは、何かを作るというよりも、「自分だったらどうだろう?」と自身の過去の記憶と照らし合わせて演じるということをしていたんです。つまり、『タッチ』だったら自分の中学生、高校生の頃を思い出して、こういう立場に置かれた時に自分だったらどういう感情を抱くかなと考える。そして、その感情の動きを南ちゃんの状況に当てはめて、という感じでやっていたんです。
『トトロ』では、メイちゃんとの会話のシーンだったら、自分は弟たちとどんなふうに遊んでいたか。兄弟って、丁寧に相手を気遣うこともしないし、言い過ぎてしまうこともあるじゃないですか。そんな自分の子供時代を思い出して、サツキちゃんを演じていました。サツキは、私の幼い頃の投影と思っていただいて間違いはないです。
――それほど、サツキに思いを込めて演じられたんですね。
日髙 あんなに優等生ではなかったですけど、元気の良さやメイちゃんとの関係は完全にそうです。後をくっついて、言うことを聞かない妹が煩わしくなったり、そのくせ、いなくなっちゃったら本気で心配して、自分はどうなってもいい覚悟で必死に探し回るとか。そのあたりは、昔の自分と弟たちとの日常を思い出しながら演じていました。
実は一番難しかった“意外なシーン”
――子供らしい元気さを出したいあまり、息切れしてしまったシーンはありますか?
日髙 実は一番難しかったのは、録り直しのあったお風呂のシーンですかね。あのシーンは引っ越しの片付けが終わってからのシーンで、映画全体としては序盤なんですよね。
お父さん役の糸井重里さんとアフレコの時に初めてお会いして、「はじめまして」と挨拶したと思ったら、いきなり父子で「ガーッハッハッハッ」とやらなきゃいけなかったので(笑)、テンションの上げ方がすごく難しかった。そして、息切れがするぐらい体力的にも大変だったのは、引っ越してきて「ボロ~」って言って走り回るシーンでした。
自転車でお母さんの病院にお見舞いに行くシーンで、3人乗りしていますよね。木々を潜り抜けて、坂道を下るところで、ジェットコースターに乗っていて思わず出てしまう、悲鳴のような歓喜の叫びのような声を入れたいと思ったりして。そのシーンも大変でしたけど、演じるのはとても楽しかったですね。
――本番のアフレコで一度演じ始めると、冷静さみたいなものはどこかへ飛んでいってしまうといいますか。
日髙 家でリハーサル用のビデオを見ながら練習して声を出している時って、ひとりぼっちというのもあって、妙に冷静になって自分の置かれている立場なんかを考えてしまう。でも、一度アフレコのブースに入ってしまうと、画面と自分が一対一みたいな形になって、「いかにサツキちゃんを演じるか」という点に集中することができたと思います。