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「お母さん、死んじゃったらどうしよう」声優・日髙のり子が『トトロ』サツキ役に込めた思い〈一番難しかった“意外なシーン”は…〉

日髙のり子さんインタビュー #2

2022/08/19
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「お母さん役」島本須美さんのベタベタしない優しさ

――お母さん役は、やはり宮崎監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)でクラリス役、『風の谷のナウシカ』(1984年)でナウシカ役を演じた、島本須美さんですよね。

日髙 島本須美さんとは、『忍者戦士 飛影』(日本テレビ、1985~1986年)という作品で初めて共演させていただいて。テレビのレギュラーだったので、毎週1回一緒にお仕事をしていて、その頃からとても良くしていただいたんですよ。本当にお世話になっている先輩という感じで。それに、宮崎監督、ジブリの作品には須美さんがつきものというね。だから、須美さんがいてくれたことでも安心できました。

 あっ、そういえばサツキ役のオーディションを須美さんが受けたという話を、一緒に出演したテレビ番組の収録で聞いたことを思い出しました。先ほど、ほかに「サツキ役を受けた人のことを知らない」ってお話ししましたけど。須美さんが、そうでした(笑)。ものすごくびっくりして「ええっ!」って。ずっと知らなくて、よかったと思いました(笑)。

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 たしか『トトロ』は、須美さんが出産された直後の作品だったんですよ。それで「お母さん役を」ということになって、須美さん自身もそのことをすごく大切に思われていて。

『となりのトトロ』より。お母さんに髪を梳いてもらっているサツキが、メイに「順番」と返すシーン

――お母さんとの病院のシーンは短いですが、印象深いですよね。

日髙 サツキちゃんがお母さんに髪を梳いてもらっていて、メイちゃんが「メイも」と言ったら「順番」って返すんですけど、そこがいいんですよね。日頃お母さんのかわりをしているサツキちゃんが、お母さんの前で娘に戻る瞬間で。お母さんに甘えている感じがすごく出ている。

 “ジブリといえば須美さん”という安心感は、もしかしたら制作側の皆さんのほうが感じていたかもしれませんね。私はどちらかというと、母親になられて、その思いを大切にしながらお母さん役を演じている須美さんの、ベタベタしない優しさみたいな感じ、あれが沁みましたね。表面的じゃない、もっともっと深い愛情とでもいいますか。

序盤の「お化け屋敷みたい!」はアドリブだった

――家の中を駆け回ったりする序盤のシーンは、けっこうアドリブも多かったと聞いています。

日髙 引っ越してきて「お化け屋敷みたい!」とか「ボロ~」と言いながら、サツキちゃんが側転したり、口に手を当てて「アー!」とネイティブ・アメリカンの真似をやったりとか。あのあたりはセリフとして書かれていなかったので、絵に合わせて演じました。

『となりのトトロ』より。躍動感あふれる序盤のシーンはアドリブも多かったという

 サツキちゃんの役を演じるにあたって一番気をつけたのは、とにかく快活な少女に見えるようにしたいということ。小さい子って、常に120パーセントの元気で動き回っていますよね。子供は疲れを知らないっていう、そういうところを表現したいなって強く思いました。実際、絵もそのように動いていましたので。だから、思いっきりという感じ。はしゃいでいる絵だったら、こっちも思いっきり本気ではしゃいで。とにかく絵に負けないように、声を入れなくちゃって。

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