東京2020オリンピック競技大会で最も知名度を上げた選手のひとり、五十嵐カノア(24歳)。同大会ではじめてサーフィンが公式競技になったこともあり、日本代表選手は国内外から注目を浴びた。

 よく日に焼けた肌に爽やかな笑顔、5カ国語を自在にあやつりアメリカで飛び級したという“スマート”なエピソードも、彼が注目を浴びた一因だろう。しかもそんなエピソードに負けない“強さ”もあった。

 

 東京五輪では千葉・釣ヶ崎海岸でトップサーファーたちと戦い、決勝へ進出。サーフィン界初の金メダルをかけた戦いは、惜しくもワールドチャンピオンのイタロ・フェレイラに惜敗したが、準決勝では同じくワールドチャンピオン経験者のガブリエル・メディナを破るなど、世界トップレベルの波乗りで多くの人の心を打った。

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 そんなカノアがいま、世界最高峰のプロサーフィンツアー「CT」で、ワールドチャンピオンに手の届くポジションにいることを知っているだろうか。

 そもそも「CT」の男子部門は全世界から36選手のみが参戦できる超狭き門。日本の男子サーファーもその門をくぐろうと1980年代から挑戦を続けてきたが、世界の頂へ続く道に歩みを進められたのはわずかに1人。それが五十嵐カノアなのだ。

 なぜ五十嵐カノアだけが世界の“分厚い壁”を突破して、“波乗りドリーム”をつかめたのか。そこにはサーフィンを愛する破天荒な両親、五十嵐勉さん・ミサさんの思いがあった――。

東京五輪後に撮影した家族写真

世界一の選手だけに許されるイエロージャージ

――カノア選手、とても調子がいいですね。今年のCT第4戦では、世界ランキング1位の選手だけしか着用を許されないイエロージャージを着て出場していました。「アジアのサーフィンを新しいステージへ導いた」とも言われています。カノア選手も気合いが入っているんじゃないですか?

五十嵐勉さん(以下、勉さん) 今、CTで上位に食い込む選手は同世代が多くなってきていますが、彼らはジュニア時代から年間チャンピオンを争っていた幼馴染のような顔触れです。だから本人も「当時と変わらないね」と言っていますし、気負いは少しもないんじゃないかな。