坂上が思わず「えっ、3万本!」と声を上げた。とにかく見渡すかぎり葉たばこなのだ。
「種まきが3月中旬で、収穫は6月下旬から8月の終わりまで。その後、葉を乾燥させて出荷します。ですから今日は、坂上さんに葉の収穫と、それを干すところまでお手伝いしてもらいたいと思います。
まずは茎の根元に一番近い熟した葉を2、3枚ずつ、一本一本収穫していきます。昔はかがんでの手作業だったんですけど、今は作業機があるのでそれに乗って収穫します」
茂木さんが作業内容を坂上に伝える。目の前には、小型エンジンが積まれた幅70センチほどの荷台のある作業機。座るシートは地面すれすれに据え付けられ、人が歩くよりも遅いスピードでゆっくりと進む。これで畝のなかに入っていき、1枚1枚人力で収穫していくのだ。
時刻は昼下がり。夏の日差しの照りつける中だが、「この畝、全部やりますよ。中途半端じゃ茂木さんたちに悪いから」と止まる気配がない。やるときは徹底的にやるのが坂上のスタイルだ。
「計30万枚ですね」言葉を失う物量
30分ほどすると荷台に150枚程度の葉たばこを満載し、全身汗だくの坂上が畑のなかから姿を現した。その表情からは疲労感も見られたが、どこか満足気な風情を漂わせていた。
「お、いい葉っぱ取れてますねえ。上手いもんです」と茂木さんからお褒めの言葉。坂上は「途中から慣れてきましたけど、やっぱ単純作業だから大変ですよね。まだ葉はたくさんありますし、この葉の収穫作業ってこのあとどうなるんですか?」と質問をする。
「この作業を基本的に下から上に向かって5回繰り返します。ひと回りするごとに3万本あるんで6万枚の葉を収穫します。それを5回繰り返すので計30万枚ですね」
30万枚という途方もない数を聞き「えっ、これは本当に重労働だわ……」と、先ほどまでの収穫の充足感はどこへやら、言葉を失う坂上だった。