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 こうやって生の状態で吊るして最初の3~4日でだいたい勝負は決まりますね。茎だけ水分を抜いて、葉に水分を残したりして。さっき5回に分けて収穫するといいましたが、収穫のタイミングが異なると熱の入れ方や乾燥の仕方が変わってきますしね。

 1月下旬まで出荷がつづくんですけど、それまで毎日のように管理しなくちゃいけない。正月も作業です。最終的には弾力性があって柔らかい、味の乗りがいい葉たばこに仕上がります。全国的に見て東北の技術はすごいんですよ」

「僕らみたいに人にスケジュールを管理されているのも嫌ですけど…」

乾燥させたたばこの葉に鼻を近づける坂上さん

 それを聞いた坂上は感心するばかり。貯蔵庫に吊るしてある褐変した葉たばこに鼻を寄せ「いい香りだなあ」と言うと、つづけた。

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「いやあ、頭が上がらないなあ。僕らみたいに人にスケジュールを管理されているのも嫌ですけど、でも農家さんにくらべれば楽って言うか、茂木さんは自分で自分のケツをひっぱたかなくちゃいけないんですもんね」

 すると茂木さんは笑顔で答えた。

「そうですね。ゆっくりしようかなって、実際そうしちゃうと3日後ぐらいに後悔するんですよ(苦笑)。ただ、葉たばこの栽培は面白いんですよ。サイズもでかいし、枚数も多いけど、こんなに奥深い作物はおそらくこの世にはないと思います。

たばこ農家の茂木さん

 他の作物の現場も知っているし、横のつながりもあるから、気候も年々極端になって農家を取り巻く環境の厳しさが増しているのは感じています。でも、正直、他の作物と比べてもたばこは収入は安定していますし、農家の高齢化や作業の効率化という課題はありますが、やりがいもあるし、純粋に栽培をしていて楽しいなって思える作物ですね」

 日も傾きはじめ、あたりに響き渡る蝉時雨、頷きながら聞いていた坂上は、茂木さんの顔を見て言った。

茂木さん(左)と坂上さん

「楽じゃない仕事だとは何となくわかっていたつもりですが、これほどとは思いませんでした。普段から吸っているたばこが、どのような過程で出来ているのかわかり本当に勉強になりました。もっと根元まで吸わなきゃいけないなって思いましたね(笑)。やっぱり農業ってすごいな。今日はどうもありがとうございました!」

写真=石川啓次/文藝春秋

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