「いやあ、本当知らないことばっかりだなあ。農家さんって、こんな繊細で大変な作業しているんだ」
蝉の鳴き声が響き渡る夏の盛り、坂上忍は広大な葉たばこ農園にたたずみ、大粒の汗を浮かべそう感嘆した。もちろん紫煙をくゆらせ美味そうに一服しながら。
秋田県仙北市角館地区。“みちのくの小京都”と呼ばれ、荘厳な武家屋敷が建ち並ぶ風情豊かな古(いにしえ)の街。坂上が訪れた葉たばこ農園は角館の中心地から車で数十分ほど行った郊外にある。
なぜ、この場所に坂上がいるのか――。本人は言う。
「若いときからたばこを吸っているけど、他の農作物と違って、葉たばこがどうやって耕作されているのか全然知らなかったんですよ。僕にとっては一番身近な嗜好品であり、農作物なのに……。で、たばこの関係者の方に仕事でお会いしたとき『泊りがけでもいいから農業体験してみたいですね』なんて話をしたら、実現することになったんです」
深く知るには現地に訪れ体験するのが一番だ。論より行動の坂上のフットワークは軽い。
「ようこそ、いらっしゃいました!」
そう言って坂上を笑顔で出迎えてくれたのは、この地で葉たばこ農園を営む茂木聖(もてぎまさし)さんだ。昭和41年(1966年)から葉たばこを育てている農園2代目の茂木さんは、自らSNSで葉たばこ耕作や農業全体への思いなどを発信している、農家としては非常にユニークな存在だ。
あたりには高さ180センチほどに成長した葉たばこが一面に広がっていた。葉は一枚、大きいもので長さ80センチ、幅30センチぐらいはあるだろうか。
緑のたばこ畑の中に消えていく坂上
茂木さんが葉たばこ農園について説明をする。
「葉たばこは日本各地で栽培されているんですけど、秋田県では約140件の農家が耕作しています。やはり高齢化が進んでいるので、年々農家は減っていますね。栽培しているのはバーレー種というほとんどの銘柄のたばこにブレンドされている葉で、この農園では3万本ほど育てています」