久保木被告も今井被告と同様にASDと診断
迎えた判決言い渡しの日。傍聴していた記者が振り返る。
「事件になったのは3人ですが、久保木被告による被害者はさらにたくさんいます。反省の弁があるとはいえ、被害者の人数から死刑が言い渡される見立てのもと記事の準備をしていました。しかし、裁判長が発したのは『無期懲役』という言葉でした」
久保木被告も、川崎老人ホーム連続転落死事件の今井被告と同様、対人関係がうまくいかないASDと診断されていた。争点だった責任能力について裁判所は「問題なし」との判断を下したが、地裁の家令和典裁判長は予想外の言葉を発した。
「本当に慎重に検討しました。生涯をかけて償ってほしいというのが裁判所の結論です」
家令裁判長の決断理由を前出の記者が解説する。
「ASDの影響で看護師としての資質が足りない中で、患者の家族に怒鳴られてうつ病になり、『患者を消すという短絡的な動機で犯行に及んだ』のは被告人の力では避けようがなかった、と歩み寄ったのです。さらに『死んで償いたい』と話したことから更生の可能性があるという理由で無期懲役となりました」
この判決に3人の被害者の遺族は反発、検察側も控訴し、今後東京高裁で審理される予定だ。
死刑を「廃止してほしいが、世論は違う」と踏み込んだ発言
久保木被告に説諭した家令裁判長は、東京地裁や千葉地裁など、大規模な裁判所で著名刑事事件の1審を多く手がけてきたスペシャリストだ。
「実は約20年前、中堅裁判官として福岡地裁に赴任していた家令氏が、公民館で市民と交流するイベントに出席し、『自分の名で死刑を言い渡したい裁判官はいない。廃止してほしいが、世論は違う』とかなり踏み込んだ発言をしたのです。現職の裁判官が死刑の是非について言及するのは珍しいことでしょう」(大手紙社会部デスク)
家令裁判長による久保木被告の死刑回避について、専門家は「異例の判決。高裁でどうなるのか」「永山基準からは逸脱していないといえる」などと評した。
死刑制度については賛否が分かれる。しかし、40年前の「永山基準」という不明確な判断材料だけが一人歩きし、裁判官の心情で「死刑」と「無期」が決まるかのように見える日本の司法では、被害者やその遺族は到底納得できないだろう。(1回目、2回目を読む)
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