安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから約1カ月半が経過した。事件発生当初、検察幹部からは、山上徹也容疑者(41)に対して「死刑求刑も視野に捜査を徹底すべきだ」との厳しい声があがっていたという。検察幹部は、歴代最長の首相在任記録を持つ安倍氏を忖度したわけではなく、「元首相の参院選応援演説中の凶行は、選挙という民主主義の根幹を破壊しかねない重大事件」と捉えていた。
一方で世論は、当初こそ非難する声が多かったものの、母親が旧統一教会にのめり込み不遇な半生を過ごした山上容疑者の生い立ちが明らかになるにつれて、一部では擁護するような風潮が強まってきているように見える。署名サイト「Change.org」での容疑者の減刑を求めるキャンペーンでは約7500人(8月27日時点)が賛同しており、旧統一教会と政治家の関わりを問題視する報道や安倍氏の国葬に反対する声も大きくなっている。
日本の死刑制度は、殺害された被害者が1人の場合、死刑になることは極めて稀である。果たして、山上容疑者にはどのような求刑、判決が待っているのだろうか。これまでの判例を見ながら、死刑制度について考えてみたい。(全3回の1回目/2回目、3回目を読む)
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オール検察体制で重罪を科すべく捜査
参院選投開票日を間近に控えた7月8日、山上容疑者は奈良市の大和西大寺駅前で候補者の応援演説をしていた安倍氏に近づき、2本の筒があり一度に6発発射する手製の銃を発砲して殺害した。
現在は11月29日までを予定に鑑定留置が行われている。検察関係者によると、「一応」の措置として、責任能力に問題がないことを確認した上で起訴される見込みだ。捜査当局は、山上容疑者が自ら銃を製造して試し撃ちを行い、さらに安倍氏の岡山遊説にも足を運んで犯行を目論んだ「計画性」と「執念深さ」に着目し、余罪を洗い出すことに専念している。捜査を担当する奈良地検から、大阪高検、最高検へと捜査報告がその都度なされ、オール検察体制で重罪を科すべく捜査が進んでいるという。