よほどの理由がない限り死刑が言い渡されることはない
では、山上容疑者にはどのような判決が下されるのか。死刑判決が言い渡されることはあり得るのだろうか。その判断材料となるのが「永山基準」である。
「永山基準」とは最高裁判所が1983年7月8日に下した判決を指す。1968年に19歳の少年が4名を銃殺した事件について次のような判断がなされた。
「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない」
以来、裁判ではこの「永山基準」に沿って死刑の判断がされてきた。特にポイントとなるのが「殺害された被害者の数」で、被害者が1人の殺人事件では、よほどの理由がない限り死刑が言い渡されることはない。そのため、山上容疑者の場合も無期懲役以下になる可能性が高いと言える。
長崎市長銃殺事件「私怨であって民主主義は関係ない」
安倍元首相銃撃事件を考える上で参考になるのが、2007年に発生した選挙期間中に現職の長崎市長が元暴力団に銃殺された事件だ。司法担当記者が解説する。
「被害者は1人ながらも、『選挙を混乱させ民主主義の根幹を揺るがした』という理由で、1審では死刑判決が言い渡されました。しかし、2審では被害者が1人であることや、『私怨であって民主主義は関係ない』と判断されて無期懲役になりました。検察が上告しましたが、最高裁も支持し無期懲役が確定しています」
検察としてはこの長崎市長射殺事件と同様、選挙や民主主義を理由に罪を重くする可能性があるが、山上容疑者の母親が旧統一教会に多額の献金をし、家庭が崩壊していたことなど詳細が判明していくと、トーンダウンし、現在は死刑求刑回避の見方が優勢のようでもある。