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民意を反映するために導入された「裁判員裁判」の決断が覆される

 だたし、死刑か否かの最もスタンダードな指標とされている永山基準は約40年も前の最高裁の判例のため、近年はこれにとらわれすぎることはなく、死刑判決が下されることもある。

 例えば、1999年に発生した光市母子殺害事件は、被害者が2人ながら、犯行時少年だった被疑者を、犯行の残虐性から最高裁が死刑にしたケースだ。永山基準に沿うと、被害者2人の場合は死刑の可能性が高まるとは言え、「未成年は死刑とならない」との共通認識があった。

 しかし2006年、最高裁は1審2審と無期懲役だった少年について、広島高裁に差し戻した。2008年には高裁が死刑判決を出し、これを最高裁が支持して確定している。

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光市母子殺害事件の差し戻し上告審判決で、被告の死刑が確定し、記者会見で目頭に手を当てる遺族の本村洋さん ©時事通信

 こうした厳罰化に対して、死刑廃止論者は「死刑のハードルが低くなっている」と指摘するが、現実には、1審の死刑判決が控訴審で覆ることも少なくない。

「死刑判決のハードルはいずれにしても高いと言えます。2009年に裁判員裁判が始まると、国民から選ばれた裁判員が苦渋の決断で死刑判決を出すケースが増えました。しかし、2審の職業裁判官が無期懲役にするという例も多い。これでは、民意を反映するために導入された裁判員裁判の意味がなくなってしまうという批判もあります」(前出の司法担当記者)

被害者が1人で死刑判決が出た「岡山元同僚女性バラバラ殺人事件」

 では、高いハードルを越えて、1人殺しで死刑になった例はどのような事件があるのか。在阪の社会部デスクが解説する。

「考え得る最もひどい1人殺し事件といえば、『岡山元同僚女性バラバラ殺人事件』でしょう。2017年に死刑が執行された住田紘一死刑囚(34・執行時)は2011年、同僚の女性から現金などを奪ったうえで性的暴行を加え、命乞いをする女性の胸などを何度も刺して殺害しました。遺体を切断して川に投げ捨てるなどして証拠を隠滅。罪自体は認めていましたが『被害者や遺族がかわいそうだとは思わない』などと供述するなど、犯行後の態度も悪かった。被害者が1人の死刑判決は年に数件程度ありますが、前科のない被告人では初めてのケースでした。本人が控訴を取り下げ1審で死刑は確定。執行までも非常に早かった事件です」