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目に見えない無形資産が多ければ、心豊かに暮らせる

 逆もまた真です。歳を重ねるともう人に気を使わない、人から嫌われてもいいからとずけずけ言いたいことを言う、一目置かれるのがかっこいいと思う人もいます。

 しかし配慮のない発言は嫌われるだけでなく人を傷つけ、長い恨みを買うこともあります。ずけずけ言っているように見えても人間関係が長続きしている人は本当に傷つけることを言わないように気を配って発言しています。無形資産を傷つけてはいけません。

 当然ですが自分だけ「得」をしようと抜け目なく立ち回る人は周りから敬遠されていきます。だれでも友人との関係を自分のため利用しようとする人とは一緒に仕事をしようとか、頼みごとを聞いてあげようとは思いません。抜け目なくうまく立ち回っている人、権力者にとりいり面と向かってお世辞を言っていても裏で悪口を言っているような人は、みんな警戒します。

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 そういう人は短期的には得をしているように見えても、長期的には人生が貧しくなっていきます。だれも信頼しないで利用価値でしか人とつながらない人生は歳をとるにつれて、寂しく心が満たされません。自分が何を言ってきたか、人とどう関わってきたかが目に見えない無形資産で、それが多いと心豊かに暮らせます。

 定年で仕事をやめても「ぜひ来てください」と次の仕事のお声がかかるのはバリバリ仕事をする「やり手」だった人より、人がよくて世話好きで明るく穏やかな方です。団体の役員や公職にお声がかかるのもこうした人のよい人で、「ここがナットラン、ああすべきだ」と批判する人や「報酬が少ないから引き受けない」と断るしっかりした人にはあまり声はかかりません。

 私も「あの人はお人よしだからトクにもならない仕事を引き受けては忙しがっている」といわれているのでしょうが、報酬はそれほど大きくなくても新しい世界を知り、新しい出会いがあり、社会に役に立つという報酬を得ているから、まあいいかと思っています。

 もちろんいくら人がよくても怠け者で体の動かない人や仕事ができない人にはお声はかかりません。普通の能力を持っているうえで「お人よし」であるのが友人として仲間として一番付き合いやすいのではないでしょうか。

 特に年齢を重ねていく時期にはできるだけお人よしでいるようにする。日本には人のよい高齢者があふれているという社会になりたいものです。

女性の覚悟

坂東眞理子

主婦の友社

2022年6月30日 発売