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「狭い部屋に大きな仏壇は入らないから…」

――時代が変わってきているのに、いまだに習慣でお金をかけなきゃいけないものが多い。そこに疑問を持つ人は多いと思うんです。

多良 お葬式を豪華にしても、亡くなった人には何もわからないですから……。仏壇を用意する際も、この狭い部屋に大きな仏壇は入らないから、なるべく小さいものがいいと思っていました。とても良いサイズ感の仏壇を見つけて、そこに主人の骨を分骨して置いています。

「とてもよいサイズ感」の仏壇 ©文藝春秋

 お墓は山の上にあって一人で行けないので、お正月と盆に息子たちに車で連れて行ってもらうくらい。でも、分骨して置いてあるので気持ちとしても落ち着きます。私のお墓も必要ないと思っていたんですけど、長男が「お墓がないと僕たち兄弟の縁が薄れる。それはさみしい」と言うもんですから、そこは子どもたちの判断に委ねました。

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――きちんと考え抜く=判断というわけですね。

多良 この先の人生を考えたら、不必要なお金をかけることはできませんもの。主人はサラリーマンだったので、わが家には毎月決まったお金しか入ってきません。その中でやりくりしなくちゃいけない。ずっとそうやって家計を管理してきましたから。

借金はしないし、財産も持たない

――お話を聞いていると持ち家ではなく、賃貸の団地を選んだのも納得です。

多良 私が死んでも、賃貸なら遺産相続で子どもたちが揉めることもない。それに、お金をかけるなら子どもたちの教育にかけたいという思いでした。借金はしないし、財産も持たない。浮き沈みのある商家に育ち、お金のこわさを知っているので。

 もうこの団地に住んで55年になりますけど、部屋の設備が壊れたら修理をしてもらえる。団地は、家賃が安くて管理もラクなんです。それに、孫のあーすに言わせると「レトロでいい」そうです(笑)。

©文藝春秋

――一方で、息子さんたちからすると、年老いた親を一人で住まわせることに罪悪感もあるのではないかと。

多良 主人が亡くなった後、長男から同居の話もされました。気持ちはありがたかったですが、やんわり断わりました。それは、私が経験したことでもあるんです。私が結婚した当時、主人の母と一緒に住んでいたのですが、関係がうまくいかなかった。私が、「この家を出たいです」と伝えると、主人は最初渋っていましたが、私の決心が固いと知ると、外に家を探してくれました。

 そうして別居するようになってからは、義母との関係もすごく良くなりました。同居していたときは厳しい姑だったんですけど、物理的な距離ができたことでお互い気遣えるようになって。「いただきもののミカンがあるから、取りにいらっしゃい」と声をかけてくれたり、反対に頼ってきてもくれるようになりましたね。