差し出された自家製梅シロップのソーダ割りを前にして、「昔から作り続けているんですか?」と訊くと、「違うの。YouTubeで作り方を見ながら、今年初めて作ったんです。そうしたらおいしかった」とほほ笑みながら打ち明ける。

 YouTubeを使いこなす多良美智子さんは、今から2年前、85歳でYouTuberデビューを果たした、“ユーチュー婆”。老後のひとり暮らしの日常を切り取った『Earthおばあちゃんねる』の登録者数は12万人を超え、一番人気の動画にいたっては200万回再生を超えるほど。今年3月には、『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』を上梓した。

 老いてますます盛んなり。希望に満ちた老後のひとり暮らしを実現する、お金の使い方、人との付き合い方を聞いた。(全2回の2回目/前編から続く)

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亡き夫の葬儀は「22万円ですませた」

――『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』には、多良さんの「お金」や「人付き合い」に関する持論も展開されています。驚いたのが、ご主人が亡くなった際の葬儀代。「22万円ですませた」という記述です。

多良 一般に言われる葬儀費用は本当に高いですよね。うちの家計で、何百万円もかけてお葬式をする意味があるのかなと思ったんです。主人が現役で亡くなったならまだしも、当時87歳。同僚の方も亡くなっていたし、主人の親族も九州で、そばにいません。それで、子どもたちに相談して内輪だけでお葬式をしようと決めたんです。

 葬儀社の方が来た際に、見積もりを提示されたんですけど、あまりの高さに驚いてしまって。そうしたら、しっかり者の娘が、「うちの母はこれからひとりで暮らしていかないといけないから、こんなにお金は出せません」とはっきり言ってくれて。これも要らない、あれも要らないと。そうしたら22万円になったんです。

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――高い費用のかかる戒名を付けなかったことにも驚きました。

多良 戒名を見たところで、子どもたちも孫たちも誰のことだかわかりませんよね(笑)。

――たしかに(笑)。すごい理にかなってる。

多良 主人が亡くなる前に、九州の主人の弟に電話したんです。お葬式をするときはお坊さんを呼んだほうがいい?と聞いたら、「こっちに菩提寺のお坊さんはいるけど、そっちに知っているお坊さんはいないだろう」って。いないと伝えると、「じゃあ、呼ばんでいい」。

 私自身、戒名ではなく本名を書いたほうがわかりやすくていいんじゃないかと思っていたので、そのことも告げると、主人の弟も賛同してくれました。