月9『大切なことはすべて君が教えてくれた』は、そのなかでようやくつかんだ大きなチャンスだった。そう考えると、このとき髪を切ったことには単なる役づくりという以上に、心機一転という決意が表れていたように思える。
学園ドラマである『大切なことは~』には生徒役で、同じくオスカーに所属する武井咲のほか、広瀬アリスや菅田将暉など当時の若手俳優が綺羅星のごとく出演していた。続けて出演した武井主演の『アスコーマーチ~明日香工業高校物語~』でもやはり生徒役で、松坂桃李、賀来賢人、永山絢斗など、いまにして思えば豪華な面々と共演する。
1歳下の武井とはこのころ一緒に売り出され、共演も多かった。のちには互いにCMに多数出演するなど、ライバルと目されるようにもなる。作品での役どころも対照的で、武井が正統派美少女で真っ直ぐな性格の持ち主を演じるのが目立ったのに対し、剛力の演じる役はたいてい複雑な事情を背負い、性格も屈折していたという印象が強い。
「熱い男が好き」意外と古風な結婚観
剛力がドラマで演じた役にはまた、男性社会のなかで奮闘する女性が目立つ。『アスコーマーチ』からして、男子生徒が大半を占める工業高校を舞台にしていた。その後も、『あすなろ三三七拍子』(2014年)では、廃部寸前の大学の応援団にフェミニズム論のゼミのフィールドワークの一環として入部し、前近代的なしきたりに反発する学生を演じた。あるいは『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』(2016年)では、首相から「官邸料理人」に任命され、高橋一生演じる料理長から敵対心を抱かれながらも、数々の要人や政治家を虜にする天才料理人を好演している。
ボーイッシュなルックスとあいまって、剛力はそういう役がよく似合った。ただ、彼女自身はどちらかといえば男性や結婚について古風な考えを持っていたようだ。
『週刊文春』の「原色美女図鑑」に初登場したときには、《熱い男が好きですね。夢に向けて一直線、みたいな。私はそれを三歩下がって見守ってたいです》と話していたのが目を引く(同誌2011年12月1日号)。あるいは『あすなろ三三七拍子』出演時の対談では、ドラマのなかで古い体質の男性社会を嫌うヒロインを演じながらも《自分自身はそういうのがすごく好きなんです》と語り、さらには「結婚するまで実家を出るつもりはない」と家族に宣言しているとも明かしていた(『週刊朝日』2014年9月12日号)。