「容疑者が死亡すれば不起訴、事件はお蔵入り」
警察ジャーナリストの小川泰平氏が、留置場内での自殺が警察にとって絶対に避けなければいけない“大きなミス”である理由をこう説明する。
「警察は事件の真相解明が責務。しかし容疑者が死亡すれば不起訴になり、容疑者の口から何も語られないまま事件がお蔵入りすることになるので、自殺させるわけにはいきません。留置場では先輩から巡回の要諦をみっちり教えられますし、自殺された場合には、署の留置管理課長はもちろん、その場にいなかった係長などの責任者にまで処分が及ぶこともあります」
警察にとって容疑者の自殺は絶対に避けたい事態であるにもかかわらず、こうした失態はなぜ繰り返されるのか。
「容疑者の自殺や自殺未遂があるたびに巡回が増やされ、40年ほど前までは1時間に2回の見回りだったのが現在は4回。さらに『特異被留置者』、『特別要注意被留置者』という“要注意人物”に指定されると頻度が上がります。凜容疑者が指定された『特異被留置者』だと見回りが1時間に5~6回に増え、扉を開ける時も殴りかかったり鍵を奪おうとする危険を防ぐために複数の警察官で対応します。『特異被留置者』は1つの留置場に1人もいるかいないかのレベル。『特別要注意被留置者』だと、房の前に椅子を置いて24時間つきっきりの対面監視になります」(小川氏)
警察にとって留置場は「何も起こらなくて当たり前」の場所であり、容疑者の自殺が起きてしまうと「関係者の懲戒処分は避けられない」という。そのため巡回や身体検査も厳しく、映画などであるように、留置場内にはヒモ状の物を絶対に入れさせないようにしているという。
「身体検査で不審な物を持っていないかを確認するのはもちろんのこと、スウェットやパーカーのフードのヒモも全て抜きます。当然ベルトもネクタイも禁止。ヒモを抜いたら落ちてしまうくらいゆるい場合には、違う服を差し入れてもらったり留置場にある服を貸し与えます」(小川氏)
留置人の状態をチェックすることに警察は神経を尖らせており、「眩しい」と言って毛布で顔を覆う人がいても、顔を見せるように注意する。それでも容疑者を拘束するわけにもいかないため、留置人が看守の巡回のパターンを把握し、巡回の間の10分ほどのわずかの時間で自殺に及ぶのを止めきれないケースが出てきてしまうという。