1ページ目から読む
3/4ページ目

山タヌキと里タヌキの違い

 千葉の調査地を選んだ理由の一つは、拠点とした集落の戸数が江戸時代からほぼ増減がないことだった。開発と過疎から免れた里山のタヌキを知りたかったからだ。彼らは、丘陵地の二次林と平地の農地が混在する里山で何世代も生きてきた。そのなかで、ライフスタイルが少し違う2タイプがいた。

 里山の「山」のほうを中心に生活するタヌキたちは、人家に近づくことも、農作物を荒らすこともなく、実際に見るのも捕獲時のみで、死体とならない限り再会はなかった。繁殖巣穴には、尾根近くのアナグマが掘ったと思われる穴や昔の手掘り用水路があった。

 一方、「里」メインのタヌキたちは、外灯や車のヘッドライトで見ることや、農道でばったり出会うこともままあり、その住人は知らないが、庭にも出入りしていた。巣穴は廃屋の庭にある納屋の床下を使っていた。山タヌキのほうが里タヌキより一晩に動き回る範囲は大きく(平均15.4 vs. 4.9ヘクタール)、移動速度も速かった。

ADVERTISEMENT

 くねくねと歩くことを示す移動のフラクタル次元は、行動圏内の農地面積が増えるにしたがい低くなった。つまり山タヌキが複雑な移動をするのに対し、里タヌキは比較的直線的であった。採食行動および景観構造の違いがそこに表れたのだろう。

©iStock.com

亜成獣は、親の行動圏から離れることも

 2タイプの共通点は、河川敷の植生をよく利用することとアズマネザサの藪や用水路の会所をねぐらとすることだった。そして両タイプが、二次林と農地がモザイク状に配置するのに合わせ、その周辺を重複させながら、安定した行動圏を維持していることがうかがわれた。

 この行動圏とは、日常的に使う範囲のことであるが、里山のタヌキを長く追っていると3パターンあることがわかった。成獣ペアの行動圏は数年にわたり(どちらかがいなくなるまで)、位置は安定しており、サイズも夏の育児期に少し狭くなったり脂肪を蓄える秋に広くなったりすることはあっても、大きく変化することはない。これを安定型と呼ぼう。

 亜成獣は、親の行動圏から離れることがある。それを分散行動というが、タヌキは秋から冬にかけて分散することが多い。その時期から落ち着くまで広範囲を移動する。これを収束型と呼ぼう。

 また、配偶者を失ったかいない成獣オスは大きく移動することがあり、行動圏は広くなる。これは放浪型と呼ぼう。メスについては、配偶者がいなくなってもとどまるかもしれない。