「名言、珍言、問題発言」ウォッチャーとして、1週間に1回、その週の「見逃してはいけない発言」をピックアップして紹介してくれている大山くまおさん。あ然茫然とするような失言のオンパレードだった2017年。各界の「名言、珍言、問題発言」としてスタートしましたが、いつしか比重は政治家の「失言、珍言、問題発言」が多くをを占めるようになりました。大山さんによれば、最近の特徴として、政治家が失言しても、辞めたり責任を取ったりしないケースが増えてきたとのこと。今年の総ざらいとして、1年間の失言、珍言、問題発言を振り返ります。

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安倍晋三 首相
「こんな人たちに負けるわけにはいかない」

毎日新聞 7月4日

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 今年1年を象徴するような失言。「上半期失言大賞」でも取り上げたが、やはりこの言葉を取り上げないわけにはいかない。東京都議選投票前日の7月1日、秋葉原で街頭演説を行った安倍首相だが、聴衆の一部から「安倍辞めろ」「安倍帰れ」などのコールが発生。これに対して怒りを露わにした首相は、聴衆を指差しながら大声で「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放った。

 安倍首相の言葉が表わしているのは「分断」だ。大衆の味方であるはずの政治家が、自ら大衆を敵と味方に分けてみせたのだ。「思想や立場に基づき『敵か、味方か』と峻別する政治姿勢は、歴代宰相の中でも際立つ」という評価もある(西日本新聞 10月11日)。インターネットでは「親安倍」と「反安倍」をめぐって人々の対立は激しくなるばかりだ。

 政治ジャーナリストの藤本順一氏は、「分断」こそ安倍首相の政治手法だと指摘する。「原発再稼働や沖縄米軍基地移転のような国論を二分するテーマは反対派の反発を買っても、半数の支持は得られる」(『週刊ポスト』6月16日号)。メディアの「分断」も巧みに行われており、読売新聞や産経新聞のような「親安倍」と朝日新聞のような「反安倍」の扱いをはっきり分けることで、スキャンダルが起きてもメディアが一枚岩になることはない。このような「分断」のおかげで、閣僚クラスの政治家が致命的な失言をしても責任を免れるケースが増えてきた。

 ニュースキャスターの松原耕二氏は、現在の日本の状況に対して「ふたつに分けられるほど、ものごとは単純ではないし、人間も単純ではない」(ちくまweb 7月28日)と警鐘を鳴らす。敵か味方かで単純化ばかりしていれば、お互いの価値観を認め、一致点を見出しながら共生することなどできない。

2017年10月21日、秋葉原で「リベンジ」を果たすべく衆院選の最終演説を行う安倍首相の話を聞きに集まった人たち ©時事通信社

 安倍首相といえば、森友学園問題について語った「私や妻、事務所は一切関わっていない。もし関わっていれば首相も国会議員も辞める」(産経ニュース 2月17日)という言葉や、ほとんど口癖のようになっていたが一向に果たされなかった「真摯に説明責任を果たしていく」「丁寧に説明する」(NHK NEWS WEB 6月19日)という言葉も印象深い。

小池百合子 東京都知事
「排除されないということはございません。排除致します」

産経ニュース 9月29日

 下半期最大の失言といえばこれだろう。希望の党を立ち上げ、10月に行われた衆院選の主役の座に躍り出た小池氏だったが、凋落も早かった。小池氏が民進党の合流希望者に対して振りかざした「排除の論理」は国民の反感を買い、希望の党は惨敗。小池氏は希望の党の代表を辞任し、都知事に専念せざるを得なくなった。今や希望の党の政党支持率は、たった1.0%だ(産経ニュース 12月8日)。

2017 年12月20日、豊洲市場への移転を決定し、記者会見する小池百合子東京都知事 ©時事通信社

 この「排除の論理」も一種の「分断」だ。作家で僧侶の瀬戸内寂聴氏は、「排除なんて言葉を使う政治は国民には読めません。伝わりません」と批判する(東京新聞 12月24日)。

 大阪大学名誉教授の猪木武徳氏は、2016年の世界情勢を振り返る記事で「分断や排除へと激しく動いたこの1年を振り返ると、文明の時代から野蛮の時代へと振り子が戻ったのではないかという思いが強まる」と記していたが、それが日本でもはっきりしたのが2017年だった。猪木氏はこうも語っている。「反対派を認めつつ共存することが文明の本質なのだ」(産経ニュース 2016年12月30日)。

今村雅弘 前復興相
「まだ東北で、あっちの方だったから良かった。首都圏に近かったりすると、莫大な、甚大な額になった」

産経ニュース 4月25日

 今年上半期に飛び出した衝撃の失言。震災から復興をめざす人々の気持ちを復興庁のトップが自ら踏みにじった。激怒した安倍首相は、すぐさま今村氏を更迭している。

 東電株を8000株持っていることも注目を集めていた今村氏だが、そもそも復興相に就任した際も「復興相かあ……」と落胆していたという(後に本人は否定/『週刊文春』4月20日号)。「東北で良かった」発言は「今村氏の本音が出た」という指摘が相次いだ。なお、今村氏は10月の衆院選に比例九州ブロックから出馬し、当選を果たしている。

震災被害者の気持ちを踏みにじる失言で辞任した今村雅弘前復興相