物語にあう音を完成させるまでの過程はしんどかった
――網守さんはどんな思いでサウンドトラックの制作に挑まれたのですか?
網守 たいていの映画の場合、すでに撮影が終了していて、そこにあう音楽を制作するやり方が当たり前になっているのですが、『百花』の場合は真逆からのスタート。音楽が完成しないとストーリーが仕上がらないというものでした。だから、物語で表現されている感情に彩りを与え、シーンを盛り上げるだけの音楽を作るのでは、意味がない。そういう楽曲を制作しても、却下されてしまうなって。
物語にあう音を完成させるまでの過程は、今思い出しても身体の具合が悪くなってしまうほど、しんどいものでした……。アニメ『NARUTO』における中忍試験みたいなものを何度もやらされたような感覚でしたね。川村さんとは思い出したくもないくらい、相当やり取りを重ねました(苦笑)。
川村 今回、劇中で使用している音楽は『トロイメライ』『プレリュード』など、曲名は知らなくても、誰しもがどこかで耳にしたことがあるクラシックをベースにしたものなのです。その耳馴染みのあるメロディが記憶を喪失していくなかで瓦解して別のメロディとして再構築されていく。クラシックの知識があり、かつ現代的なものに解釈してくださる方として適任だと思い、網守さんに制作をお願いしました。
今回の音楽において大切にしたのは、ストーリーとの距離感でした。あまりに寄り添いすぎてしまうとメロドラマのようになってしまうし、離れすぎてしまうと観る人の心が離れてしまう。そこのバランスをとっていただく作業が本当に難しくて。だから網守さんは、何度もこの仕事を辞めたいと思ったことでしょう(笑)。
音楽制作をするときに気を付けていたこと
――KOEの音楽制作を担当されたYaffleさんは、どんなことに気をつけて制作されたのでしょうか?
Yaffle 制作する側からすると、AIでただ情報が集積されて人間っぽいものを作るのでは、過去のクリシェをそのまま踏襲させたものになってしまう。でも、その流れを受け継ぎながらも、これまでのカルチャーにはなかったものを導き出していこうと思いました。