やはり最後は気持ち。勝負の大原則だ
「オリックス 13日の金曜日 魔の5回」(10/14 毎日新聞縮刷版)
息の根を止められたのはロッテだった。この夜、パの試合はオリックス戦しかなく、特別な番組編成で川崎の試合を朝日、毎日放送がそれぞれラジオで単独中継。4回まで3対0でオリックスがリードし、先発佐藤はノーヒットピッチング。それが5回突如崩れ、1点を許した後、愛甲に逆転3ラン。あっという間の逆転劇でひっくり返されると、そのまま流れを掴めなかった。胃がただれそうになりながらあとで見たテレビのスポーツニュース。レフトへフラフラと上がり高いフェンスの上からスタンド前列へ落ちたまさに“川崎ホームラン”。山なりの弾道が今も頭に残る。こういう試合で妙に力を発揮するタイプが愛甲だったのだろう。と、気づくも後の祭り。気付いていたとしてどうしようもなかったのだが。投げては空気を読まない剛球を持つ伊良部がリリーフでピシャリ。前年は10.19で近鉄の夢を奪ったロッテによってオリックスの夢も奪われたのだ。数字上はまだ優勝の可能性が残っていたが、新聞に掲載のカメラのフラッシュの光を浴びながらまさに呆然と帰りのバスへと向かう上田の姿が戦いの終わりを告げていた。
1近鉄、2オリックス、3西武。首位までのゲーム差は0.5、1。残り試合は近2、オ1、西1。
翌日、近鉄はダイエーを下し、9年ぶりの優勝を飾った。
「129試合目で近鉄笑った」(10/15朝日新聞縮大阪版)
「近鉄雪辱のゴール ~10・19の無念晴らした」(10/15 毎日新聞縮刷版)
近鉄、オリックス、西武とも残り1試合を残し大混戦のペナントレースは決着した。近鉄の戦いを称える記事では、最終戦で優勝を逃した前年の戦いに触れ、あの悔しさを忘れず、最後まで諦めない気持ちが勝利を掴ませた、と書いていた。やはり最後は気持ち。勝負の大原則だ。
「とうとうゴールが来たか、こればっかりは延長がないからな」
これは敗軍の将、上田の弁。一方の仰木は「シーズンを通して苦しかった。しかし、苦しいことには慣れている。それをばねにして選手が期待に答えてくれた。逆境に強いのが体質になってます」。さらに「選手に働ける場を与えて自信をつけさせ、能力を引き出すのが私の仕事。若手とベテランがお互い活性化すればチームは強くなる」とも。
仰木のコメントや采配に関する記事を読みながら、今のオリックスの話を聞いているような気にもなった。悔しさ、経験、いくらかの自信を持って戦ってきたであろう若いチームにこの秋、どんな結果が待っているのか。
駆け足で33年前の激闘を振り返ると、図書館を出て家へ急いだ。テレビの前に座ると、ソフトバンク戦は試合中盤。オリックスが追い上げ千賀を攻めていた。しかし、最後は1点が届かず敗れ、翌日の楽天戦も大敗。
「こういう試合をしてしまったのは申し訳ないですが、終わっていないので。ついていくしかないので」(9/12、楽天戦敗戦後の中嶋のコメント)
そう、ここまで来ればガムシャラに食らいついていくしかない。連敗のあとの13日も楽天に引き分け、翌日本ハム戦も延長12回までもつれこむ戦い。ここに来ても打線が振るわず苦しんだが最後は若月のタイムリーでサヨナラ勝ち。楽天戦で勝利したソフトバンクにマジック11が点灯も、ゲーム差は2のままで踏み留まった。残り10試合で2ゲーム差。33年前の近鉄は残り10試合で首位西武に2.5ゲーム差。残り9試合で3.5ゲーム差、残り7試合で2.5ゲーム差からの逆転だった。ソフトバンクは残り試合も多く有利に映るが、西武、楽天の動向も絡み最後まで何が起こるかわからない。このところの打席に一段と凄味が増している吉田が33年前のブライアントになるかもしれない。
冒頭で触れた2桁ゲーム差から逆転で首位に立つも優勝出来なかった唯一の前年優勝チームがあの年の西武。絶対王者を史上唯一のサンプルにさせたのだから、いかに激しいペナントレースだったか。そしてその戦いを制した近鉄バファローズと、あと一歩で敗れたオリックスブレーブスの血を引くオリックスバファローズが今、令和の大混戦を戦っている。いよいよ最終盤。当時とは試合数も違うが、33年前に勝者と敗者が分かれた129試合目に立った首位の座への返り咲き。そして歓喜のフィニッシュへ。ちなみに33年前の難敵ロッテとはあと3試合を残す。ここまでは14勝8敗とあの年と同様、一番の得意としているが最後に厄介者とならないことを願うばかり。ひょっとすると、バファローズとブレーブスの夢を砕いたお返し(援護射撃)がこのタイミングであるかもしれない。見るとロッテはソフトバンクとも最多の5試合を残す。まだまだ、ここからだ。
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