先の日曜日の朝、日刊スポーツ(大阪版)の裏一面にソフトバンク戦で13勝目を挙げた由伸の写真が大きく出ていた。周りには「最大11.5差から129戦目」「今季初」の文字が並び、中心には赤縁取りの目立つ黄文字で「オリ単独首位」。記事によると過去に2桁ゲーム差から首位へ浮上のケースは15チームあり優勝は7チーム。前年優勝チームに限れば5チーム中4チームがリーグ優勝と、オリックスにとって心強いデータも添えられていた。

 読み終え、午後からのソフトバンク戦を京セラへ見に行きたくなったが、チケットのアテもなく、考え直し向かったのは、家の近くにある公立の図書館。朝日新聞大阪版の原紙が戦前分から保存されており、普段から活用している場所だ。この日は、朝の記事に思い立ち、史上最大の混戦と言われる1989年のシーズンを紙面で辿りたい気分になったのだ。2カ月近く続いた3強争いの末、最後は近鉄が制し、オリックスが1厘差の2位。3位西武までが0.5ゲーム差内という、オリックス元年に起きた熾烈を極めたペナントレースだ。

3球団に優勝の可能性 1989年の混パ回顧

 当時の私は一浪し挑んだ大学受験でまたも失敗。アルバイト三昧の生活から、夏には短時間バイトを続けながら合間に勉強する“宅浪”をスタート。親と顔を合わせると面倒なため、夜になると逃げるように西宮球場やグリーンスタジアム神戸へと向かった。すると夏にオリックスが首位から転落。3強による大混戦から目が離せなくなり、勉強どころではなくなった。あの年は40試合前後のオリックス戦をすべて1人で見た。20歳当時の孤独な気分も思い出しつつ、つづり紐で閉じられ、黄ばんだ朝日新聞原紙と毎日新聞縮刷版で当時の記憶を補完しながらの混パ回顧。贅沢な時間をスタートした。

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「近鉄痛い1差後退 ~逆転で勇者に連敗~」(9/18 朝日新聞大阪版)

 この原稿がアップされるのは9月17日。33年前の同日の試合から見てみようと18日の紙面を広げると、シーズン32号を放ったブーマーが満面の笑みを浮かべていた。オリックス1年目は元南海の門田も加わり、ブーマー、松永、石嶺、藤井らとブル―サンダー打線を形成。猛打を看板に開幕7連勝で飛び出し、シーズン半ばまでは独走状態。西武に実に11.5ゲーム差をつけた時期もあった。しかし今年とは真逆で投手陣がからっきし。夏場に大失速し、近鉄、西武を交えた大混戦が始まった。

 1西武、2近鉄、3オリックス。首位までのゲーム差は1、2。残り試合は西20、オ21、近21。

「夢つなぐ2発 勇者1.5差 ~藤井2ラン、松永ソロ~」(10/1朝日新聞大阪版)

「死力連勝勇者0.5差 ~11回2死から猛打~」(10/2朝日新聞大阪版) 

 一進一退を繰り返しながら、9月末からの所沢決戦でオリックスが西武に連勝。特に9回に追いつき、延長11回二死から一挙5点で勝利した2戦目はしびれた。ラジオの二元中継で聞きながら直近7年で6度優勝の王者西武を力でねじ伏せた勝ちっぷりに、今年は優勝出来る、と確信めいた思いが沸いたものだった。しかし……。

 1西武、2オリックス、3近鉄。首位までのゲーム差は0.5、2.5。残り試合は西10、オ12、近12。

「勇者「M8」点灯 ~近鉄に連勝 西武コケて~」(10/6 毎日新聞縮刷版)

「勇者に「M6」再点灯 ~門田復帰し強打復活~」(10/8 朝日新聞大阪版) 

 再点灯の一戦は観戦した神戸のロッテ戦。このシーズン、オリックスが最も得意としていた相手がロッテで初回4失点のスタートも終わってみれば13対9。ロッテにはこの頃までは勝って当然の空気があった。だから残り7試合中、ロッテ戦が5試合と知ると、悪くても4勝1敗、あわよくば5連勝と頭の中でソロバンをはじいたものだった。甘かった。

 1オリックス、2西武、3近鉄。首位までのゲーム差0.5、2。残り試合はオ7、西5、近7。

「大混パ3強「1差」内 勇者「M」消え 猛牛“完封”で弾む」(10/9 毎日新聞縮刷版)

 そのお得意さんに噛みつかれた。勉強どころじゃない、と片道1時間45分をかけての神戸観戦も村田を最後まで捕まえられず、痛い痛い敗戦(2対3)。こういう時の村田は手強かった。周りの状況や空気に左右されない強さ、これが厄介。どんな時もいつも通りに投げてきた結果の2失点完投。生真面目に投げ込んで来るフォーク、スライダー、そして真っすぐ。全盛期の速さや落差はなくても、いつも通り、魂を込めて腕を振って来る。あと1本が出なかった。それにしても……、ロッテというチームは、シーズン終盤になるとどうしてこうなるのか。つくづく厄介なチームだと再確認した夜でもあった。

 1西武、2オリックス、3近鉄。首位までのゲーム差は0(3厘差)、1。残り試合は西5、オ6、近6。

10月12日 「さあダブル決戦」(10/12 毎日新聞縮刷版)

 11日は雨でロッテ対オリックス、西武対近鉄戦が共に中止。流れた試合が即翌日に組み込まれ川崎、所沢ともこの日はダブルヘッダーに。西武が近鉄に連勝しオリックスがロッテ戦で1敗か、1分で西武の優勝が決まる。この時点でオリックスに自力優勝の芽がなくなったと書いてあるが、ダイエーと1試合、ロッテと3試合。4つ勝てば優勝の可能性は十分。ロッテの3試合を少し重く感じ始めながら、それでも3つなら勝てる、と言い聞かせていたはず。重ね重ね甘かった。

「B砲独演連勝呼ぶ4連発 ~息巻く猛牛 息切れレオ 息続く勇者~」(10/13朝日新聞縮大阪版)

 西武にとってあわよくば優勝決定の日に近鉄が首位に立った。第1試合の2打席目から3打席連続ホームランのブライアントが、2試合目の3回にも4打数連続となる勝ち越しの49号。前日の雨でダブルヘッダーに変更となっていなければ生まれなかった4発でペナントレースの流れが決まった。それでも、オリックスもこの日はお得意さんのまま大人しくしていたロッテに2試合連続の2桁得点で連勝。望みをつなぎ、この時点でもまだ3球団に優勝の可能性があった。オリックスは残り2試合。ロッテ、ダイエーに勝ち、近鉄が残り2試合の内1敗か、1分けなら優勝。近鉄の最終戦の相手は西武で“1敗”の可能性はあると感じていた。しかしオリックスとしてはロッテ、ダイエーに勝ってどうなるか。20歳の宅浪生の逃避生活もいよいよ大詰め。しかし、ここでまさか……。

 1近鉄、2オリックス、3西武。首位までのゲーム差は共に0(近鉄とオリックスは1厘差)、1。残り試合は近2、オ2、西1。