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 食事の準備や車の手配はもちろん、ライオンの襲撃シーンを撮影するために、サバンナのど真ん中でヌーの大群を日が暮れるまでひたすら追い立てたこともありました。撮影に必要となれば、とにかくなんでもやるしかない。

 現場では「できない」という言葉は口にできません。そのうえ、わずかな失敗も許されず、容赦なくとことん怒られます。

 ある程度は覚悟して現場に飛び込んだはずだったのに、数年前、入試の面接で「女の子は映画監督にはなれないよ」と言われたことが頭をよぎります。ふと弱気になることもありました。

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「内定を蹴ってまでアフリカに来たのに、毎日、なにしているんだろう」

 そんな気持ちに追い討ちをかけるように、この道20年、30年のベテランから、「お前は無価値だ」と何度も叩きこまれます。ときには、今ならパワハラになりそうな言葉さえ浴びせられましたが、それは、「余計なプライドは捨てろ」という洗礼だったのでしょう。

120%の力で完走する

 映画撮影の現場は想像以上に過酷です。

 ちっぽけなプライドを捨てられない若手が、「お弁当買いに行ってきます」と言ったきり帰ってこないなんてことは日常茶飯事。たとえ若手が一人くらい失踪しても、代わりはいくらでもいるのです。

 私は最初の現場がアフリカでしたから、もし逃げ出したとしても日本に戻る術すべがありませんでした。諦め半分ではありましたが、「なんとしてでもやり抜くしかない」と逆に腹を括くくることができました。

 さんざん怒鳴られまくる日々でへこみはしたものの、よく考えれば、その大半は納得のいくものでした。

 例えば、夕日が沈む直前、太陽からの光の角度でほんの一瞬、世界が金色に輝く「マジックアワー」と呼ばれる時間帯があります。それを狙っての撮影時に、撮影助手や照明助手がセッティングに手間取ってもたもたしていたら、その日の撮影はできません。撮影を1日延期すれば、人件費や滞在費が余分にかかり、場合によっては何百万、何千万という予算が消えてしまう。それどころか、危険なシーンでは一つのミスが誰かの怪我や命の危険にさえつながってしまうのです。