『セサミストリート』初の日本語吹き替え版を制作する担当することになった林美千代さん。女性の声優を数人キャスティングして提案するも、製作者からの返事は全てノー。
製作者とやり取りすることでわかった、彼らの強いこだわりとは? 新刊『「超」ブランディングで世界を変える 挑戦から学ぶエンタメ流仕事術』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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『セサミストリート』の社会的使命
ソニー・ミュージックエンタテインメントで担当した多くのコンテンツの中で、私に大きな影響を与えた作品の一つに、『セサミストリート』があります。
実はアラスカでの子ども時代、『セサミストリート』は妹たちには人気でしたが、すでに学校に行き始めていた私は興味を持てませんでした。
当時、私が好んで見ていたのは、ビル・マーレイやエディ・マーフィーを輩出したバラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』やSFテレビドラマ『トワイライト・ゾーン』。そしてコメディ番組の数々……ちょっと背伸びして大人が見る番組を楽しんでいました。
ところが、大人になり、仕事として深く関わることで、『セサミストリート』には「リスペクトする」ところがいくつもあることに初めて気づかされました。
『セサミストリート』は、ニューヨークのダウンタウンにある架空の通りを舞台にした未就学児童対象の知育番組です。多様性を認め合う世界をベースにマペットたちが暮らしのなかで様々な出来事に遭遇します。アメリカでの放送は1969年からですが、様々な国籍の人が集まるアメリカならではの先駆的なコンテンツとして、世界各国でも放映されていました。
ところが、日本では、中学生のための英語教育番組としてNHKが最初に放送を始めたので、英語のまま字幕をつけて放映していました。なかには英語の授業で見せられた方もいるかと思います。それだけに、日本ではどうしても英語教材という印象が強く、純粋に未就学児童にTV番組として楽しまれる機会が少なかったのです。明らかにボールを投げるターゲットが海外とは違っていました。