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「声優はダメ」「芝居ができる人でなければならない」吹替版『セサミストリート』担当者が垣間見た“製作者たちのプライド”

『「超」ブランディングで世界を変える 挑戦から学ぶエンタメ流仕事術』 #2

2022/09/11

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能, 映画, テレビ・ラジオ

note

『セサミストリート』を製作しているのはアメリカのセサミ・ワークショップという非営利団体で、作品の中にはしっかりとした思想が盛り込まれています。知育番組という枠組みではありますが、世の中の様々な価値観を反映するアンバサダーのような役割を担い、社会的な責任を果たすべく、「子どもたちをたくましく、健全に、そして心優しい、思いやりのある子に育てるためのコンテンツ」だと明言しています。

 私は映像及び音楽パッケージの販売とマーケティングを主に担当していました。

「アニメの声優はダメ」

 ある時、セサミ・ワークショップがオリジナル製作した児童向け生活指南ビデオを国内発売することとなり、「子どもたちに届けるのなら字幕ではなく吹き替えが望ましい」と提案しました。結果として私は、『セサミストリート』の初めての日本語吹き替え版を制作する担当になったのです。

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 なかでも吹き替えのキャスティングにはかなり苦戦しました。例えば、エルモというキャラクターは幼い子どもの設定です。そこで、女性の声優を数人キャスティングして提案しました。製作者からの返事は全てノー。

 まず、当初は「アニメの声優はダメ」と言われました。実は『セサミストリート』ではマペットを動かすマペッティアが、自分でマペットを操演しながら、時には自分の体を動かしながら声を出しています。俳優の経験がない若手の声優は発声方法が全く異なるというのです。

「マペッティアは体全体で声を出すので、舞台系の発声がきちんとできる方にしてください」と本国のプロデューサーから明確な指示がありました。キャラクターに命を吹き込むためには、「アフレコ」ではなく「芝居」ができる人でなければならないとも言われました。