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「声優はダメ」「芝居ができる人でなければならない」吹替版『セサミストリート』担当者が垣間見た“製作者たちのプライド”

『「超」ブランディングで世界を変える 挑戦から学ぶエンタメ流仕事術』 #2

2022/09/11

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能, 映画, テレビ・ラジオ

note

 作品の世界観を守るためのこの徹底したこだわりには、製作者のプライドを感じます。また、『セサミストリート』は世界各国で放映される人気番組でしたが、製作者は「この番組は放送される国の子どもたちのためのものなので、それぞれの国の『セサミストリート』を作ってほしい」ともアナウンスしていました。単なる吹き替えではなく、その国の文化や風土、コミュニティの特色を取り入れながらローカライズしてほしいというのです。

 例えば、メキシコではストリートではなく広場が舞台。『プラザ・セサモ』(セサミ広場/現『セサモ』に改題)というタイトルで、メインキャラクターも黄色いカナリアのビッグバードではなく、オウムのアベラード。ビッグバードの従兄という設定で、メキシコでよく見かけるカラフルなオウムです。番組を見る子どもたちが主役であり、その日常が舞台でなければならないという強いこだわりがここにも垣間見えます。

ビッグバードと従兄のアベラード (画像:You Tubeより)

『セサミストリート』は、いまでいうダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包含性)に照らしても、いくつもの項目に合致する先鋭的な思想を取り入れていました。また、『セサミストリート』のキャラクターは、誰一人として同じ姿形をしているものはありません。ユニークで多様性に溢あふれたキャラクターたちが「セサミストリート」で共生しているのです。

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 数年前には「ジュリア」という自閉症の女の子もデビューしました。『セサミストリート』は、ダイバーシティやインクルージョン概念がまだ世に広まる前から、「子どもたちがそれぞれの社会で、お互いの違いを認め合い、それぞれを活かし合いながら楽しく前向きに生き延びていくために何を伝えるべきか」を深く考えて製作してきた番組なのです。

 社会的使命を担ったコンテンツの象徴であり、私にとっては「普遍的価値を提供するコンテンツ」のお手本の一つとなっています。

「声優はダメ」「芝居ができる人でなければならない」吹替版『セサミストリート』担当者が垣間見た“製作者たちのプライド”

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