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「まだ早いんじゃないかしら」

 本人には志半ばで辞任したという思いが強く、やり残したことがたくさんあったようです。その後は健康状態を立て直し、身体を鍛えることに一生懸命になっておりました。ジムに通ったり、家でも階段をしょっちゅう昇り降りしたりと、自分なりに努めておりました。

 政治家として、地盤の固め直しにも励んでおりました。突然の辞任だっただけに、期待してくださっていた方々からはお叱りを受けることもありました。晋三の持病についてご存じではない方も多くいらっしゃいました。そういった方々に納得していただくために、小さな集会を重ね、地道に選挙区をくまなく回っていたようです。このとき、今日につながるしっかりとした土台を改めて築くことができたのだと思います。

安倍晋三氏 ©文藝春秋

 辞任から5年後の12年9月に、自民党総裁選に再び挑戦したいと晋三から聞かされたとき、わたくしは「まだ早いんじゃないかしら」と感じました。もう少し時間を置いたほうが良いのではないかと思い、晋三にもそれを伝えましたが、なにしろ急なことでもあり、長々と話をすることもございませんでした。

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 二度目の総裁選の日、わたくしは習字のお稽古日でした。ちょうどお稽古の最中に本人から「いま決まったよ」と電話がかかってきて、たいへん驚いたものでした。

安倍洋子氏 ©文藝春秋

 いろいろと政治的な課題もあるでしょうが、おかげさまで、晋三も総理として4年目を迎えることができました。母親として晋三にしてあげられることはそうはありません。ただ主人の仏前には、晋三の健康のことと「晋三が、この国の歩む道を誤らせませんように」ということを、祈るばかりです。(#2に続く)

宿命 安倍晋三、安倍晋太郎、岸信介を語る

安倍洋子

文藝春秋

2022年9月22日 発売

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