そうであれば、役に立たない研究など不要ではないか?と世の中から問われるはずだ。しかし有難いことに、水族館を訪れる多くの人々や、沖縄県民、そして学術界の皆さんからは、多大な評価を受けている。美ら海の“役に立たない研究成果”が紙面やネット上に掲載されると、多くの皆さんからたくさんの激励やコメントをいただく。
研究成果を広く県民や国民に知らせることは、水族館の研究活動を理解してもらう上でも重要で、国際的にも沖縄美ら海水族館の研究レベルを知ってもらう良い材料となる。また、研究の動機や過程・成果・考察を分かりやすく人々に紹介することは、サイエンス・コミュニケーションの重要な機会だ。そして、私たちの研究が導き出した、“より新しい知見”は、生物多様性や種の保全などを考えてもらう上で良い機会となる。
私たちは、それらの機会をできるだけ数多く、そして幅広く設けたいと考え、館内の展示物だけでなく、各種メディアやオンライン体験サイトを最大限活用しているのだ。美ら海の研究は、産業や経済にとっては何の役にも立たないが、人々の意識や社会の変革に役立つ可能性は大いにあるかもしれない。
私たち、沖縄美ら海水族館に勤務するサメ博士たちは、館内での来館者やオンライン上での一般市民との交流が日常となっている。正直に言うと、来館者から疑問や質問をいただくことは我々の活力源になる。
実際に、館内やメールで寄せられた質問が我々サメ博士の面々にも転送されてくることがある。中には、私たちが説明できない素朴な疑問も多く、「申し訳ありませんが、現状では分かりません」とお答えすることもある。
たとえば、「ジンベエザメはプランクトンを吸い込んで食べるのに、どうして歯が何千本も生えているのか?」と聞かれても、正確な答えは見当たらない。実は、こんな質問を受けるたびに、私たちは「来たな」と内心嬉しく思っている。
役に立たない研究は美ら海の本分!
水族館は生きた水棲動物を展示し、それらの面白さを分かりやすく紹介する博物館である。当たり前かもしれないが、水族館を訪れる人の多くは、普段見ることのできない珍しい動物の姿や生態を見学するために来館するのだと思う。つまり、好奇心が水族館に足を運ぶ動機になっているのだ。
これは、私たち水族館職員も同じだ。動物を勉強している学生にとって、水族館は就職先として大人気なのも、同じ理由だと思う。好奇心が強いほど、人は目標に向かって邁進するはずだ。沖縄美ら海水族館を役に立たない研究に向かわせるパワーは、我々の好奇心の強さと、沖縄の自然素材の素晴らしさ(=沖縄の生物多様性)にある。