文春オンライン

2022/09/17

genre : ライフ, 教育, , 娯楽

 とはいえ、私たちサメ博士は、好奇心を満たすための研究ばかりしているわけではなく、日々の地道な作業や、安全管理、運営にかかわる業務なども行っている。私や松本さんは、むしろそちらが主な仕事であり、人の管理も含めて常に大きな責任を負っている。名誉のために言っておくが、私たちは好き勝手をしているわけではない。

 私たちの水族館は、国や県の管理の下に運営されており、常に適正な管理運営ができているか、モニタリングを受けている。けれども、私自身を含めて、職員一人一人の好奇心や自由な発想は大いに大切にするべきだし、ある目標を実現する過程で、寄り道や雑談(あえて議論と言っておこう)、時には失敗することも必要だと思う。人の心を組織がガチガチに縛り付けて管理することは、創造的な仕事の妨げにしかならない。

目指すのは「科学と人のはしご役」

 私を含めて動物の飼育展示に関わる者にとって、自らの日常業務の中に好奇心の芽を見出すことは、来館者に動物の面白さを伝える大切なきっかけになる。自分が面白いと思っていないのに、相手に楽しいと思わせることはできないだろう。

 動物の飼育展示の先にあるものは、私たち自身が本当の生物学を追求することであり、そして研究の実体験を人々に直接伝える機会を作り出すことだ。理系離れが進んでいるといわれる昨今、水族館は海洋リテラシー教育の場として、また海洋科学への入り口としての大事な役割を担っている。

 我々が行っている“役に立たないけれど面白い研究”は、人々が科学を身近なものとして理解するための大事なコンテンツになる。沖縄美ら海水族館は、まさに大人から子供まで、そして動物に興味がない人から専門家まで、すべての人々がそれぞれの立場に応じて、「知的好奇心を楽しむ場」でありたいと考えている。何の役にも立たない研究をしている我々サメ博士たちが、その役割の一端を担えるのであれば、心から嬉しく思う。

沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか? サメ博士たちの好奇心まみれな毎日

佐藤 圭一 ,冨田 武照 ,松本 瑠偉

産業編集センター

2022年6月15日 発売

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