なぜプロレスについて話すことが好きではないのか?
――長州さんは今、プロレス時代のことを思い出したり、振り返ったりすることはあるんですか。
長州 ほとんどないですね。プロレスについて話すのもあまり好きじゃない。40年以上、一生懸命やってきたのは間違いないんだけど、うん、まわりからどんな風に認められてきたのか、わからないときがあるんですよ。ずっとやってきた自分の“職業”について、あーだこーだ言われて、それを聞くのがつらいときもありますね。だからもう自分がやってきたことや、それに今やっているプロレスの世界の話はしたくないんですよ。
――“職業”という言葉が印象的ですね。
長州 プロレスはハッキリ言って仕事だったし、就職をして、ただ真剣にやってきたという感じなんですよ。ええ。まあ皆、いろんな捉え方や見方をするんだろうけど、僕はそういう言い方しかできない。たとえば(アントニオ)猪木さんのこともそうだけど、僕が見ているように周りの人が見ているわけではないですからね。周りは猪木さんのことを間違った感覚で見ているなとは思うけど、そこに対してはまったく口を挟むつもりはない。
――当人、もしくは当人同士でしか、わからないことって多いですからね。
長州 まあ仕事ってどんなことであっても真剣にやるものでしょ。そのことについて、もったいぶって顎の下をなでられて、あれこれしゃべってしまう。あれがもったいない。
大学卒業間近、監督がテレビ朝日の人と猪木さんとの食事に誘ってくれた
――自分が真剣に向き合っている仕事だからこそ、安易なことは言えないですよね。
長州 その上、周りからはあれこれ言われるから、もう反論もしたくないし、プロレスの話もね…。まあでも、僕もたまたまプロレスの世界に飛び込んで、それが仕事になっただけで、最終的には故郷の徳山に帰って船乗りにでもなろうと思っていたんですよ。うん。
――えっ、そうだったんですか?
長州 (専修)大学で4年間レスリングをやってきて、卒業間際になっても就職活動をしてなかったんだ。しかも最後まで寮住まいだったから、卒業したら住むところもない。だから当時の監督が心配をしてくれて、テレビ朝日の人と(新日本プロレス)会長の猪木さんとの食事に誘ってくれたんですよ。そのときに「なにも心配しなくていいからやってみなさい」と言ってもらって。
――そんなことがあったとは。
長州 ちょうど前年に同じレスリング出身で1学年上の(ジャンボ)鶴田さんが全日本プロレス入りをしたんです。そのとき新聞に鶴田さんの「全日本に就職します!」って言葉が大きく出たんですよ。ああ、全日本に就職するんだって思って、特別な違和感はなかったの。で、自分に声が掛かって「鶴田先輩にできるんだったら俺にだってできるんじゃないか」って思ったんですよ。まずは住むところの確保と、食べていくことを考えなくちゃいけなかったから。
「やらなきゃしょうがねえだろう。それが懸命というのかわからないけど」
――憧れて業界に入ったわけではないから、本当に“職業”という考え方なんですね。
長州 だから他の人と仕事のとらえ方が違っているのかもしれないですね。一般の人って会社の(内部の)こととかあんまりしゃべらないでしょ。それなのに顎の下なでまわされて、しゃべり過ぎて、なんか優越感でも感じるのかねえ。うん。
――長州さんは、糧を得るために懸命に仕事に取り組んできた。
長州 まあ懸命というわけでもないですよ。
――ええっ、そうなんですか?
長州 気を使って問い掛けてくれているのかもしれないけど、ある意味やらなきゃしょうがねえだろうって。それが懸命というのかわからないけど、結果的に騙されたってこともありましたからね。で、最後は大げんかですよ(笑)。