文春オンライン

2022/10/13

引退会見に立ち会えず……

 実はすこし心残りがあります。それは坂口の引退会見に立ち会えなかったこと。その日は子供たちに向けて行っている、僕のライフワーク、学校を回って教える、小学生たちへの「投げ方教室」があったんです。

 先に入っていた予定だし、「申し訳ない」とメッセージを入れると、「おお、もう来ぃへんのやな」「もう、マーシーいいっす」といつもどおりのイジり。「未来ある子供たちが待っているんだよ、わかってるでしょ?」と告げると、理解を示しつつも「マーシー来てくれないから、一生根に持ちます(笑)」なんて言ってくる。

 そんな僕のことが大好きな坂口のために後日、時間をとりました。引退試合の当日、球場入りする朝から彼に密着、合間にはゆっくり2人で話そうと思ったんです(みなさん安心してください、もちろんカメラを回しましたよ!)。

 神宮球場の裏で話すと、いろんなことが思い出されてきました。湿っぽくなるのは嫌なので、あえてノープランで、かつてロッカールームにいたときのような話をしました。話が盛り上がっている最中、坂口は「マーシー、一つだけ言っていいですか?」と急に改まります。

「もう時効だから言うけど……」

 何だろう……と思っていると、「もう時効だから言うけど……」と、僕にとっての“悪夢”をほじくり返してきたんです。

 2018年8月4日、京セラドームでの阪神戦。8対8で迎えた延長11回表、上田剛史のタイムリーで1点を挙げ、その裏、レフトの守備固めについていた僕が後逸し、結果としてサヨナラ負けを喫した試合(その試合の顛末は長谷川晶一さんが書いてくれています)。

 敗戦の瞬間、センターを守っていた坂口が、頭が真っ白になって佇む僕のレフトまで来て、肩を抱き慰めてくれたのは覚えています。でも、そのとき僕はこういったそうなんです。

「照明入った……」

 照明が目に入って後逸――プロ野球選手としては決して言い訳にできないミス。実際、その当時いろんなことを言われました。でも坂口は当時のことをこう振り返ります。

「僕も長いことプロ野球で外野手やっていたからわかるんだけど、そりゃ入るよアレは。見えへんのやから、捕れへんやろと。だから『しゃあない』ってずっと思っていたよ」

 引退のそのときまで、僕を気遣ってくれる坂口。ちょっと鼻の奥がツンとなりました。

「バックスクリーンっしょ」

 引退試合はスタメンだったので、その後、練習に出ていった坂口。僕も彼を追い、神宮のグラウンドに出て「最後の練習」をカメラに収めました。するとなぜか練習を早く終えてクラブハウスに戻ろうとしたんです。

三輪「おい、もっと練習せいよ!」

坂口「もう上手くならないからもう練習いいっしょ」

三輪「試合ではレフト前(ヒット)頼むよ」

坂口「いや、バックスクリーンっしょ」

三輪「身の程を知ってくださいよ!」

坂口「バックスクリーン狙ったりますわ!」

 2番・ライトで先発した坂口は、1打席目に、僕の注文通りにレフト前ヒットを打ったんです。

 4回表、最後のときがきました。髙津臣吾監督なら絶対に印象に残る引き際を用意すると確信していた僕は、ネット裏の通路でつば九郎とともに「その瞬間」を迎えました。

 坂口が勢いよく走って守備位置に就くと、場内アナウンスが非情にも響きました。「ライト、坂口に替わりまして――」。

おい、頼むから泣くなよ

 目を真っ赤に腫らして戻ってくる坂口を村上宗隆、山田哲人ら、後輩たちが出迎え抱きしめます。グラウンドに出た僕はカメラを回しながら(おいグッチ、泣くなよ、頼むからもう泣くなよ)と念じましたが、カメラのファインダーがみるみる見えなくなっていきました。

「これ、全部使えるんですか?」坂口は対談の最後にポツリと言いました。「全部使うよ、なんならどれもカットせんから!」僕はそう答えました。でも、そうすると膨大な時間になってしまいます。

 僕は今、パソコンの前で途方に暮れています。

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