最終戦が終わって今年の自分たちの一番の拠り所は何だっただろうと考えた。今シーズン、ファイターズは最下位、9年ぶりの最下位。新庄BIGBOSSの存在で紛れていたけれど、何度確認したって間違いなく最下位。こうなると、世のファイターズ以外のチームのファンの皆様は我々をかわいそうにと憐れんでくれる。
「どこよりも早く来季に向かうってことだしね」
「間違いなく注目度では優勝だったよね」
「CS中は? どっか遊びに行くの? ひまだもんね」
「関係ないからポストシーズンは高みの見物か、あ、最下位だから下から見るのか~」
憐れみにディスりが加わるのも大人のファンならではの言葉遊び。でも何を言われてもあのタイトルが私たちを誇らしくさせた。今季はどんなにつらい試合でも終わった後にその数字を見て、よしよしと頷いてきた。そう、私たちの心の拠り所は松本剛選手だった。
11年目にこんなシーズンが来るなんて…
3月25日、開幕戦の4番は松本剛選手だった。今季のファイターズはオープン戦ではガラポンで打順を決めていたような状態だったし、BIGBOSSは4番をそれほど重視していない様子だったので、例年ほど重要なことには捉えていなかった。でもその日、松本剛選手は2打席連続のヒットを打つ。その後の試合でもコンスタントに打ち続け、早い段階からパ・リーグ首位打者に躍り出てしまう。
盗塁も当初は首位で、ファンの心は昂り、彼がこんな風に活躍するシーズンが来ることを長く待っていたはずなのに、気持ちがついていかなかった。11年目にこんなシーズンが来るなんて、手放しで喜んでいいのかどうか、初めはちょっと信じられない思いだった。
2011年、ドラフト2位、名門・帝京高校からの入団。高卒同期には4位・近藤健介選手、6位・上沢直之投手、ジャイアンツに移籍した3位・石川慎吾選手がいる。近藤選手がまず1年目から頭角を現し、3年目には上沢投手が一軍のローテーション入り、石川選手がお立ち台で「男は黙って初球から」なんてフレーズを残しブレイクしだすと、仲のいい4人だけに松本剛選手の心中は複雑になってくる。ドラフト順位からも当然のプライドを想像するのは簡単だ。
2017年に115試合に出場し一軍に定着した時はついにこの時がと期待されたけれど、翌年の出場試合数はぐっと減り、2019年は怪我と不振でわずか4試合だった。そのオフの12月に結婚を発表。実は偶然、発表の当日、同期の上沢投手と近藤選手のトークショーの司会をした。「すごくいい人、ずっと剛のことを支えてくれた正に縁の下の力持ちのような存在」と二人は大絶賛だった。4歳年上の管理栄養士の資格を持つ方だという。その後に、本人に奥様のことを聞く機会があって二人のその言葉を伝えた。「ほんとその通り、ガツガツしてなくて、僕をしっかり支えてくれる人」とまっすぐに話してくれた。
去年、2021年の10月には長女が誕生。その後の年末の契約更改の会見の言葉が印象的だった。「僕が働かないと家族に迷惑をかけてしまうので、もどかしいシーズンが続いているけれど、来年は一皮も二皮も剥けた姿を見せたい」。改めて、この言葉を頭に入れてから今年を振り返ると実に感慨深い。皮は何枚剥けたんだろう。